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寅さんが好きで、渥美清の「あれぇ?」という言い方を真似した。大好きなマット・ディロンが禁煙したとき、演技に尖った印象がなくなったと感じてから煙草をやめられなくなった。自分の好きなものを知っている。
一途でありながら、どこか軽快だ。そのかっこよさがにじみ出るたたずまいを、日本映画の監督たちがこぞって求める。
5月末、ドイツのフランクフルトでは「ニッポン・コネクション」が開催されていた。今年で19年目となる日本映画に特化した映画祭で、来場者は1万6千人を超える。最新の注目作が上演されるコンペティション部門は映画祭の大きな目玉だが、選出された16作品中、6作品に出演し、毎日のように舞台挨拶やトークショーのゲストとして観客に熱く迎えられる俳優の姿があった。
大正末期の女相撲の、頼りがいのある興行主を演じた「菊とギロチン」(瀬々敬久監督)。自殺したパンクロッカーを愛らしく演じた「ルームロンダリング」(片桐健滋監督)。史上初、奨励会退会後にプロ編入を目指す主人公の、アニキ的棋士役を演じた「泣き虫しょったんの奇跡」(豊田利晃監督)。境遇の違う2人の幼馴染みの間を取り持ちながら、40歳を目前にして家族や仕事、地域のつながりに改めて向き合う姿を演じた「半世界」(阪本順治監督)。演じる役者はすべて渋川清彦(44)だ。今や、日本映画になくてはならない顔。しかし、渋川にはまったく気負いがない。
「今回は俺が出てる作品も多いし、登壇しただけでドイツの人が自分のことを覚えてくれてる反応があって嬉しかったけど……。でも質疑応答ってなったら、みんな監督に聞くからね。俺もまぁ、ちょっと答えたりはしたけど、どっちかっていうと、ただそこにいるってぐらいの感じでしたね」
それよりも、と話し始めたのは舞台挨拶の合間に行ったスパのことだ。
「100年近い歴史がある場所で混浴なんですよ。若い女の子も普通にいて。でも、なんにも気にしてないからまったくエロくなかった。サウナの最上段で寝転がってたら、下の段に女の子が2人、裸で横になって、それはドキドキしたけど」
目尻をキュッと細める人懐っこい笑顔を見せ、ゆっくりと煙草に火をつける。この力の抜けたチャーミングさが渋川の魅力だ。
■ロカビリーにハマって、プロのドラマーを夢見る
どんな役も、渋川が演じると飄々とした愛嬌が宿る。カメレオン俳優の真逆というか、役を自分に引きつけて演じるタイプの俳優だ。
「自分では意識はしてない。とりあえず自分のイメージでやって、それが違かったら監督が直してくれる。それだけですね」