私の友だちは、お父さんが関東、お母さんが関西の出身で、結婚当初は日常の料理、お雑煮、おでんなど、味付けがことごとく違うので、毎日、揉めていたと聞いた。それでも何とか夫婦が歩み寄って、双方が納得できる味付けになったそうだが、お雑煮だけは毎年、関東風、関西風を交互に作っていた。私が若い頃は出身地が違う夫婦の味の好みについていろいろな話を耳にしたけれど、今は日本全国でほぼ同じようなものを食べるようになったので、そういった揉め事は少なくなったかもしれない。

 友だちのお父さんは、正直に自分の気持ちを妻に伝えたからいいが、ラジオリスナーの男性に対しては、

「どうして50年間も自分の希望をいわなかったのだろうか」

 と驚くしかなかった。匿名でラジオに投稿しなければならない彼の心情を察すると、なぜそんなに長く我慢できたか不思議でもあった。夫婦で家庭を作っていくのだから、文句としてではなく自分の希望を相手に伝えるのは当たり前である。それがいえないくらい、とてもきっつい奥さんなのか、反対にちょっと何かいっただけで、泣き崩れるようなタイプなのか。男性はなるべく妻の手料理を食べないで済むように、中年以降は、付き合いの会食があると嘘をついて外食をしていた。

 ラジオMCの料理好きの既婚女性は、

「それはだめよ。ちゃんといわなくちゃ。これから先は長いのに、ずっと我慢をして奥さんの料理を食べなくちゃならないの?」

 と心から悲しそうにいった。同じくMCの男性は、

「でも奥さんも、急にそんなことをいわれたら、びっくりするでしょうね。今までどうして黙っていたんだって」

 と静かに話していた。そして男性に対してはっきりとしたアドバイスはせずに、コーナーは終わってしまった。

 私は50年もまずいと思い続けられる料理ってすごいなと感心した。最初はまずいと思っても、長い間、口にしているうちに慣らされて、おいしくはないがそれほどまずくもないと思えるようにはならなかったらしい。いくら奥さんを大切に思っていても、まずい料理がおいしくなるわけではない。しかしその男性はラジオに投稿したことによって、少し気持ちが晴れて、明日からのまずい料理を食べる元気もわいてきたのではないかと期待するしかなかった。

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