イラスト:オカヤイヅミ
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 いくら料理を自分の手で作ろうといっても、時間がとれなかったり、体調不良だったり、どうしても作りたくない気分のときは、無理をして作る必要はない。毎回作らなければならないと考えると、息が詰まるしストレスにもなる。私は気楽なひとり暮らしなので、御飯と具だくさんの味噌汁が続いても、自分がよければ誰からも文句をいわれないのだが、家族がいるとそういうわけにもいかないだろう。

 知り合いの女性は38歳で結婚したのだが、新婚当初から食事に関して夫と揉めていた。たとえば鹿児島の親戚が送ってくれたさつま揚げを切って、野菜と炒めて出したら、彼は、

「えっ」

 といい、

「こういうのはちょっと……」

 と顔をしかめた。理由を聞くと夫は、

「こんなふうに何でもかんでも一緒に炒めるのはいやだ。野菜いためは野菜炒めとして1品、さつま揚げは別の皿にいれて、薬味と一緒に出して欲しいんだけど」

 といわれた。自分が作った料理に文句をいわれた彼女は、むっとして、

「ああ、そう。気に入らないんだったら、食べてもらわなくて結構」

 と皿を片づけようとしたら、

「わかった、わかった」

 と彼はあわてて食べはじめた。

 そして他の日には、

「おかず、これだけ?」
「こういう盛りつけってあるの?」
「今日はこういったおかずは食べたくない気分なんだけど」

 といわれる。そのたびに、

「それなら食べてもらわなくて結構」

 と毎回、皿を下げる強硬手段に打って出ていたら、彼もそのうち黙って食べるようになったという。

 しかし食事が終わると、夫婦の会話もそこそこに自分の部屋に入ってしまうようになったので、急用があるふりをしてノックをせずに彼の部屋のドアを開けてみた。すると彼はこっそりクリームパンを食べていた。どうしてそんなことをするのかと聞いたら、

「だって盛りつけ方も含めて、自分の気に入った雰囲気のおかずが出てこないと、とても悲しくなるからさあ。不満をいっても改善されないし、食事に幻滅しても、あとで甘い物が食べられると思うと我慢できるから、自分を癒やすために甘い物を買って帰るようになったんだ」

 と白状した。

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