小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、小説『幸せな結婚』(新潮社)、対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、小説『幸せな結婚』(新潮社)、対談集『さよなら!ハラスメント』(晶文社)
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■マネージャーのメッセージがなーんにも頭に入らない

 このところ、またちょっと困ったことになったなと思っています。どういうわけかADHDの特徴とされる要素が強く感じられて、頭の中が取り散らかっているのです。先月父が他界してバタバタしていたのと、その余波で仕事の締め切りがとんでもないドミノ倒しになっていることが原因だと思われます。

 処理しなくてはならない案件が複数あると、優先順位をつけるのに手間取ったり、一つ覚えると一つ忘れてしまったりして、とても混乱します。頭の中に置いてあるデスクがとても小さいので、いっぺんにたくさん物を置くとどこに何があるかわからなくなるし、順に積み上げると一番上のものばかり気になって下にあるものを忘れちゃうし、かといって並べて置くスペースもないし、まるで書類が山積みのデスクの前で両手にいっぱい荷物を抱えて立ち尽くしているような、泣きたい気持ち。

 そんな切羽詰まった状況でも、部屋は綺麗だし服装も乱れていないし仕事もすっぽかしたりしないので傍目には問題ないように見えていると思います。実際は、そのような状態を維持するのに非常に時間とエネルギーを使ってしまうので、ヘトヘトなのです。ここ数日は、毎晩原稿を書きながら椅子で即身仏のように寝ているので、デスクのすぐ横にあるベッドはシワひとつないままです。ああ神さま、あとで一日が4時間しかなくなってもいいから、どうか今だけは一日を60時間にしてください。そしたら締め切りに間に合うし、運が良ければ水平になって眠ることもできるかもしれないから。

 こんな風に締め切りやらメールの返信やらに追いまくられてしまうのは、そもそも仕事量が限界を超えているからです。でも、もしもADHDがなければ、やるべきことを書き出すのにも、それをこなすのにも、今よりは時間がかからないのではないか?と恨めしく思ったりもします。一方では、その特徴ゆえに一つのことに夢中になると他のことが目に入らないほどの集中力を発揮することもあるので、それを仕事で生かせた時には「ああ、この特徴は神さまからのギフトだな」と思います。

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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