13年1月にオープンすると、直後から「やまぐち」には多くの学生が訪れた。さらに、オープン翌月に転機がやってくる。TBS「王様のブランチ」に取り上げられたことで、連日行列を生む人気店に一気に成長したのだ。オシャレで入りやすい店内は、学生だけでなく広い客層に愛され、遠くから足を運ぶ人も増えてきた。そしてこの年末、業界最高権威とも言われるTRY新人大賞を受賞した。翌年末にはミシュランガイド東京のビブグルマンを獲得し、その後は5年連続で掲載されている。特に鶏ベースの「鶏そば」の人気が加熱したことで、16年にはメニューを鶏に一本化。今もその人気はとどまることを知らない。
■ラーメン業界、新店の豊作年は?
13年は「やまぐち」を筆頭に「しば田」「トイ・ボックス」「すぎ本」「四つ葉」など近年稀に見る新店の豊作年だった。その中でも、先陣を切って人気店の仲間入りをした「やまぐち」の名を取って、この年を「やまぐちイヤー」と称するラーメンファンもいる。
「すぎ本」の杉本さんは、同じ13年独立の山口さんへの尊敬を口にする。
「2000年代から自作ラーメンを作り続けてきた山口さんは、業界の大先輩でありながら、食べ歩きや研究への姿勢が素晴らしいです。そして、それがしっかり自店舗の食材選びや調理法、味作りに活かされています。最初に出店したのとは全く別のラーメンで新規出店するなど、常に挑戦し続けているところも尊敬しています」(杉本さん)
山口さんも「支那そばや」イズムを受け継いだ杉本さんの一杯を高く評価する。
「大好きなお店です。佐野さんのDNAを受け継ぎ、厳しい修行を経た人にしか作れない一杯に仕上がっています。鶏・豚・魚介のスープ素材の組み合わせ方など、さすがの一言です」(山口さん)
同じ年に独立した二人だが、名店で修業を続けた杉本さんと、一人自作ラーメンを作り続けた山口さんの境遇はまったく異なる。だが、お互いのラーメンを高く評価する。人気店のあり方には答えがないが、ラーメンへ傾ける店主の情熱の量が美味しさにつながっていることは間違いない。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。
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