らぁ麺 やまぐちの「鶏そば」は一杯880円(筆者撮影)
らぁ麺 やまぐちの「鶏そば」は一杯880円(筆者撮影)

 まずは土地勘のある立川や多摩エリアで出店場所を探してみたが、新規出店に不動産屋はなかなか首を縦に振ってくれない。その後、高田馬場でラーメン店の居抜き物件が見つかった。駅から10分ほど歩くため、便のいい場所とは言えなかったが、他にあてはなく、ここに決めることにした。親戚にお金を借りて出店資金を調達、失敗は許されない。

■「学生をナメてるのか?」 高田馬場の厳しい声

 高田馬場が都内でも屈指のラーメン激戦区であることは知っていたが、この街のお客さんがどんなラーメンを愛しているかは知らなかった。そこで山口さんはグルメサイトの高田馬場エリアの上位50軒のお店に足を運び、ラーメンを食べて回った。これだけ食べると街のラーメンの傾向は見えてくる。早稲田大学をはじめとする学生街で人気だったのは、ガッツリ、濃厚なラーメンだった。

 ここで同じ系統を選ばないのが山口さんだ。あえて逆をいき、オンリーワンの存在になるしかない――。そう考えて、醤油の清湯系で勝負することにした。コンセプトが定まっていなかった立川時代の反省を生かし、キーワードがはっきりした、わかりやすいラーメンを目指した。スープは鶏ベースとカツオベースのそれぞれ2種類を用意。昔から愛する白河ラーメンの名店「とら食堂」の鶏の旨味を前面に出す製法をヒントに、ひとくち目で素材のインパクトを感じられるようにこだわった。また、チャーシューも切り置きはせず、提供前に切っては一枚ずつ火を入れる。鍋に追いガツオを入れて、風味を際立たせた。

 麺にもこだわり、「麺屋棣鄂」の特注麺を使った。「すぎ本」の杉本さんも使っていたことを前述したが、東京で初めて「棣鄂」の麺を採用し、広めたのが「やまぐち」だった。当初はいろいろな製麺所の麺を試してみたが思うようにいかず、「棣鄂」の麺を食べた時の強烈な印象を思い出したのだ。「棣鄂」は普通、400玉50kgぐらいのロットでしか受けてもらえないところ、150玉から受けてくれた。毎日試行錯誤を繰り返し、オープン10日前に特注麺が完成したという。

内装にもこだわった(筆者撮影)
内装にもこだわった(筆者撮影)

 さらに、味だけではなく内装にもこだわった。当時の高田馬場は、ガッツリしたラーメンに応えるような質実剛健な造りのお店が多かった。だが、山口さんは女性一人でも入れるようなオシャレなお店づくりを追求。食べるときにストレスがかからないよう、椅子と机の高さも考え抜いた。

 とにかく、お客さんに何かしら印象的なものを植え付けられるよう工夫した。だが、最初はなかなか受け入れられなかったという。

「こだわりを詰め込みましたが、高田馬場には合わないコンセプトに『学生をナメてるのか?』と言われたこともあります。でも、こってり好きの学生ばかりではないはず。そう信じて美味しいものを作れば、お客さんは集まると、自信を持って店を開きました」(山口さん)

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