AERA 2022年12月19日号より
AERA 2022年12月19日号より

「オムロンは50年前に日本初の福祉工場であるオムロン太陽を設立し、障がい者の雇用機会創出に取り組んできました。近年は精神発達障がい者の職域開発・安定就労が社会的課題であり、オムロンでも精神発達障がい者のメンバーの活躍に向けて様々な取り組みを行ってきました。中でも、高い専門スキルを保有する、精神発達障がいのある技術者を採用し、事業の中枢でイノベーション創出に挑戦しようとしているのが、今回のプロジェクトです」

■特性に応じた配慮を

 インターンシップ中から、三者三様に特性が異なり必要な配慮も異なるため、当人たちと配属部署と相談した上で働き方を工夫した。例えば一人はコミュニケーションが苦手で、わからないことがあっても相手の状況を過剰に気にしてしまい、質問などができず、ストレスになってしまう一面があった。インターンシップが行われた当時、緊急事態宣言中でフルリモート体制。担当の技術指導者とも相談し、就業時間中そのインターンシップ生とずっとカメラをつなぎお互いの様子がわかるようにすることで、声をかけやすい状況を作ったという。

「春に入社した社員は、聴覚過敏があるため、ノイズキャンセルイヤホンを着用しています。また、急に声をかけられることが苦手という面があるので、声をかける前に事前の合図を部署内で決める、複数の人からの指示に混乱してしまうので指示者を特定する、イエス・ノーで答えられるように聞き方を工夫するなど、特性に応じた配慮を実践しています」(瀬川さん)

 一緒に働くメンバーの理解を深めるため、社内で障害特性に関する勉強会なども行っている。

 結果として当該社員はこの8カ月間安定して就労し、担当する制御機器事業のソフトウェア開発で、周囲が驚くような働きを見せているという。

 今年はスキルがマッチせず、インターンシップに進む人材がいなかったという。強みを生かしてもらうためにサポートは惜しまない。その代わり求める技術力に関しては妥協しない。障害者を雇用することが目的ではなく、事業成長に貢献できる人材を採用することが目的だからだ。同社の人材活躍への本気の思いが垣間見えるエピソードだ。

 発達障害だけではない。病気介護子育てなど、さまざまな事情を抱えたメンバーが、職場にいるのはごく当たり前のことだ。一人ひとりが個性、特性を消さずに安心して働ける環境があるかどうかは、これからの時代の強い会社の必須条件になるだろう。(編集部・高橋有紀)

※「Getting to Equal 2018:The Disability Inclusion Advantage」

AERA 2022年12月19日号より抜粋