この投稿をしたSonyaさんは、パニックや恐怖から逃れるために、その後も幾度か坂本の北京五輪のショートプログラムを観賞したという。投稿の文章はさらに続く。
「それは2022年の世界選手権の時でした。言葉にするのは難しい。『なぜ私たちなの?』『もうどうしようもない』と思ったのを覚えています。
それは私の町では午後11時頃でした。地区全体が真っ暗でした――明かりは全くなく、その上ひどく遅い動画品質で、私はカオリのフリースケートを観ていました」
坂本の昨シーズンのフリープログラムは、女性の自由と解放を力強く歌う、「No more fight left in me」。タイトルだけを直訳すれば「私に闘志は残っていない」となるが、歌詞は「私の敵になんてならないで ただ私が私自身であることをあなたに認めて欲しい」と続く。優勝がかかった最終滑走で、強いメッセージを持つこの曲を滑りぬいた坂本の演技は、Sonyaさんの心に強く響いた。
「この言葉はそれ以来私のマインドの中を巡っています。私は泣いていましたが、それは彼女が全てのジャンプやスピンを行ったからではなく、彼女がこの辛い期間中私を生かし続けてくれていた光だと気づいたからです」
情勢はいまだ混迷の中。Sonyaさんは現在、戦火を避け国外に暮らしている。
「今はこのフリーを観る事はほとんどありません。あの頃の全ての感情が蘇り、それらに対処するのはとても難しいから」
と書きつつも、Sonyaさんは「カオリ、あなたは私の笑顔の理由です。あなたがいつも分かち合ってくれる内なる光は、私の暗い日々を照らしてくれました」と、今回厳しい結果に終わった坂本に宛てて、力強いエールを送っている。
世界選手権が開催された今年3月は、ウクライナの住人を標的にしたロシアによる攻撃が熾烈を極めていた時期だ。Sonyaさんは、振り返るにはあまりにも過酷な経験を敢えて文章に綴り、不本意な演技に涙を見せた坂本選手への応援メッセージとした。英語で投稿されたこのInstagramの記事は、坂本花織ファンのmanmaさん(@manmacome)によってTwitter上で紹介され、スケートファンの間で大きな話題となった。