12月8日からイタリアのトリノで開催されたフィギュアスケートのグランプリファイナル。ジュニア・シニア総勢17名の選手を送り込んだ日本選手団は、宇野昌磨、三原舞依、三浦璃来・木原龍一、島田麻央の4種目制覇をはじめ、7枚のメダルを持ち帰る大活躍を見せた。
歓喜に沸く一方、ショートプログラムでトップに立った坂本花織は、フリーで崩れ総合5位。バックステージで、ソチ五輪銅の名選手、カロリーナ・コストナーに肩を抱かれ号泣する姿も見せた。
坂本は、北京五輪で表彰台に上り、今年3月の世界選手権では初優勝。世界女王という肩書の重圧は考えないようにしているとしながらも、モチベーション維持の困難さについては、シーズン当初から折に触れ口にしていた。苦しむ中でもグランプリシリーズで勝ち上がり、ファイナルに駒を進めたことは充分な成果。だが今回、坂本の持ち味である高い完成度は影を潜め、その表情は点数が出る前からこわばっていた。
そんな中、ロシアの侵攻に苦しむウクライナ人女性が、インスタグラムにある文章を投稿した。
「この投稿を坂本花織さんに捧げたいと思います」
という一文で始まる記事には、ロシアの占領下で坂本の北京五輪ショートプログラムを幾度も見直したこと、爆発音の聞こえる恐ろしい状況で、その演技から見出したメッセージが彼女に落ち着きをもたらしたことなどが綴られている。
「私はウクライナ出身で、ロシアの占領下で1カ月半を過ごしました。(中略)私がまだよく覚えていることの1つは、母が薬局に薬を買いに行ったとき爆発音が聞こえ始めたことです。私はどこで何が起こっているのかわかりませんでした――私はパニックに陥っていましたが、(携帯電話の)電波がないので彼女に電話することができませんでした。何もわからず怖かったです。
私は床の上で1時間を過ごしました。そして何か他のことにフォーカスしたくなりました。私のラップトップ(PC)にはカオリのSPの動画がダウンロードされていたので、それを開いて何度か見直しましたが、その度に彼女の動きに何か新しいものをみつけました。(中略)そのことは私を落ち着かせてくれ、実際に眠りにつくことができました」)