フランスで最も愛されたと言われるシャンソン歌手、エディット・ピアフの人生を大竹しのぶさんが演じ上げる舞台「ピアフ」。2011年の初演から話題を呼び、翌12年には読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞。その後も再演を重ね、昨年秋で4度目の公演を迎えた。「ピアフが憑依した」とまで言われる圧倒的な表現力をその目に焼き付けようとファンが殺到し、チケットも完売する人気舞台だ。
【赤いネイルが映え映え! 歌のみでピアフを表現した大竹さん】
この記事の写真をすべて見る2011年秋には紫綬褒章を受章し、2016年には紅白歌合戦にも出場するなどマルチに活躍する大竹さん。女優としても歌手としてもその地位を確立したが、今年、また新たな挑戦を決めた。これまで舞台で演じてきたピアフの楽曲を“歌のみ”で表現するのだ。昨年10月にはアルバム「SHINOBU avec PIAF」を発売し、1月にはコンサートを予定している。歌だけで表現することと、演じながら歌うことの違いを本人はどうとらえているのか。
「舞台をやっているんだから、コンサートはやらなくてもいいじゃんという感じはありますよね」
そう呟いて、少し考え込んだあと、こう続ける。
「劇中ではセリフの流れの中で、ピアフという役として歌うから本当に感情のままという感じ。動きや息も含めて、私の体や感情のすべてが舞台では見えるんです。でも、アルバムでは1曲2、3分の中で確立した“その歌の中の女”として歌うから、より緻密になる。音で絵を作るようなイメージかな」
芝居とは違って、アルバムに背景やセットは存在しない。声の質感や表情、楽器の配置だけで勝負する世界。レコーディングもピアフが生きていた時代の主流だった“一発録り”に挑んだ。
「最近はオケ、歌、という順番で録って重ねることが多いみたいなんですけど、ピアフはそういう感じでは歌えない。私の歌が少しゆっくりになると、みんながそれを感じ取って合わせてくれる。譜面にないものは『感覚でやろうぜ!』という感じ。スタジオでも何度かこんな感じでと表現してイメージを伝えたら、メンバーが『お。オレだけのための専用演技!』なんて言っていました。すごく楽しくて、永遠にレコーディングだったらいいのになと思いました」
舞台で演じる大竹さんを見て、レコーディングメンバーも目と耳で「ピアフ」を感じてきた。だからこそ、言葉よりも感覚で分かり合える。「そのほうがミュージシャンの能力も最大限発揮される」とスタッフの一人は言う。
芝居だから、歌だから、という気負いはない。本番に向けての準備を整えれば、いつだって「そのときのベスト」を尽くすだけ。激動の人生の中でも愛に生きたピアフの楽曲11曲を詰め込んだ作品は第60回日本レコード大賞で優秀アルバム賞を受賞した。感想を伝えると、ハッとする言葉が返ってきた。