「疲れました?」
思わぬ質問に、本人を前にして「実は少し……」と答えてしまった。大竹さんがピアフに“憑依”した歌声は、聴くほどにピアフの壮絶な人生を感じ重苦しい気持ちになることも。
正直に伝えたその言葉に、むしろ、笑みを浮かべる。
「それでいいの。私は大丈夫だけど、ピアフの歌ばっかりだとみんな疲れちゃうから、1月のコンサートでは他の曲も歌いたいなと思っています」
パリの貧民街で生まれ、売春宿で育ったピアフ。愛を求めて歌い続けた彼女の楽曲は決して明るいものばかりではない。
「憑依しているわけではないんです。舞台でもみんな5分前にはスタンバイするけど、私はだいたい30秒前とか。初めて一緒にやる人は袖でそれを見て、驚いちゃうみたい。『群衆』も『アコーディオン弾き』も楽しい歌詞ではないけれど、歌っていて楽しいんです。『めっちゃ暗いな』って思う自分を楽しむ感じ。その世界にどっぷりはまって、後でスッキリしたな、と思う」
表現する中で、自分自身とピアフの共通点にも気付いた。劇中で「あたしが歌うときは、あたしを出すんだ。全部まるごと」というセリフを言うとき、いつも自分とピアフの境目が分からなくなるという。
「私もそのときの自分を全部出して生きてきたから、このセリフを言うとき、毎回彼女にそれを再認識させてもらっているんです。全部出すからこそ、ちゃんと生きて、ちゃんと死んでいける。浄化して、もう一度生まれることができるんです」
大竹さんにとっても、ピアフは「愛の人」。何度演じても、歌っても、その思いが揺らぐことはなく増すばかりだ。そして、ピアフを表現し続ける理由もまた「愛する気持ちを伝えていきたい」から。
「ピアフを知らない人や若い人にも、歌を聴いてもらいたいです。芝居だとストーリーがあって、生涯に焦点を当てられます。でも、コンサートではもっと客観的に見たピアフの愛するという気持ちを伝えていきたいなと思うんです。愛を知ると、やっぱり元気になると思うから」
舞台上で何度もピアフのドラマチックな人生を演じてきた大竹さん。歌一本で挑むステージで描く愛の先には何が見えるのか。(取材・文/AERA dot.編集部・福井しほ)
■大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)
1957年生まれ。東京都出身。1975年、映画「青春の門」で本格的にデビュー。映画、舞台、ドラマ、音楽、バラエティなど幅広く活躍。昨年リリースしたピアフのカバーアルバムを引っさげ、コンサートツアー「SHINOBU avec PIAF」を開催。1月17、18日 兵庫県立芸術文化センター、1月25日 東京都・Bunkamuraオーチャードホール、2月3日 愛知県・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールの全4公演。チケットは、各プレイガイドにて絶賛発売中。