それからはや30年以上が経ちました。数時間の命だったかもしれないアリスは18歳まで生き、天寿を全うしました。
その間、わが家は都内から埼玉県郡部の新興住宅地に引っ越しました。越してきた当初はまだ飼い犬、飼い猫に不妊手術をせずに外で飼う家庭もあり、捨てられる犬や猫が少なくありませんでした。当然、野良猫もたくさんいます。保護しては里親を探し、もらい手がいなければ仕方なくわが家で飼う、ということの繰り返し。ピーク時には犬11匹、猫は30匹近くまで増えました。戌年だった2006年の年賀状には11匹が勢ぞろいしています。
そのうちの1匹、雑種犬のロッタ(メス)は生まれつき肛門がありませんでした。生後2カ月のころ、里子に出す前に近所の動物病院に連れていったところ、診察していた獣医さんが「え、うそ……。ない……」と言います。
「何がないんですか」
「この子、肛門がありません」
「そんなバカな。ちゃんとうんちも出てますよ」
レントゲンを撮って調べたら、直腸が膣につながっていて、そこから排便していたことがわかりました。
きわめてまれな事例とのことで、病院では外国の文献を頼りに肛門をつくる手術をしてくれました。肛門ができても垂れ流しになるかもしれないという懸念はありましたが、幸い手術は成功。ロッタはふつうの子となんら変わりない生活を送ることができ、19歳目前まで生きました。
この地に引っ越してきてから、やがて30年になります。久しく捨て犬、捨て猫は見なくなりました。かつては多くのお宅で雑種犬を飼っていましたが、いま飼われているのはほとんどが小型の純血種です。野良猫はまだ少しいます。
わが家には現在、犬はおらず、猫が12匹います。以前より減ったとはいえ、年金生活の身には経済的な負担は無視できません。昨今はペットフードも大きく値上がりしています。「これ以上、数が増えないことを願うばかりです」という思いは、昔も今も変わりません。