15年前、しとしと雨の降る日に黒白のハチワレの子を拾った。

 鼻の下の黒い模様が口ひげに見えるイカした顔のその子、紋次郎(写真右、雄)は、私がしゃがんで「おいで」と言うと何の躊躇もなく走り寄って来て、そのまま家族になった。

 猫のいる生活の心地よさや癒やしを実感した私は、3年後に米屋の兄ちゃんが「ウチには5匹いるんで飼えないんス」と言いながら連れて来た目も開いてない白い雄の子猫を引き取った。

 白猫のピー助(同左)は臆病で、家族以外の人間を嫌がった。でも、紋次郎には甘えたり、しつこくじゃれついて叱られたりしながら、いつも一緒にいた。

 ところが2度目の大きな揺れが本を襲ったあの日、ピー助がいなくなった。紋次郎は私たちと車の中へ避難したが、ピー助は開いた窓から外へ出てしまい、余震が続く真っ暗な中を夫が捜したが見つからない。

 チラシを配り、朝昼晩エサを持って近所を捜し回り、新聞に広告も載せたが、結局見つけてあげることができなかった。

 ピー助がいなくなってから紋次郎は元気がなくなり、高い所に跳び乗ることもできなくなった。体を動かすときは「ヨッコイショ」という声が聞こえるようだった。それでも私の具合が悪いと添い寝をしてくれ、沈んでいるときは体をくっつけ、寄り添ってくれた。

 近所の道を通ると「ここを怖い思いをしながらあの子が走ったかもしれない」と思い出し、車を止めて泣いたことがあったが、そんなときも家に帰ると紋次郎はそばにいてくれた。

 ピー助はまだ見つからない。でも、もしかしたらひょっこり帰って来るかもしれない。また会えるかもしれない、と今日もご飯の皿を二つ並べて、紋次郎兄貴と一緒に待っている。

(上野志保さん 熊本県/52歳/自営業)

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