ポストモダン思想は強力だった。いや、過去形ではなく、現代もわれわれはその影響下にある。典型的なのは、絶対的な価値など存在しないという相対主義だろう。それが俗化すると、安倍政権への支持者も反対者もどっちもどっち、といった冷笑的態度になる。絶対的に正しいことなんてありはしない、と。
だが、ほんとうにそれでいいのか? 漠然とした不安と反発を感じていたところに登場したのがマルクス・ガブリエルの『なぜ世界は存在しないのか』だ。著者は1980年生まれの哲学者。2009年にボン大学教授となり、ドイツでは最年少の哲学正教授として話題になったという。
キャッチーなタイトルで、映画やテレビドラマを具体例として挙げつつ、平易なことばで難解なテーマについて語る。読んでいるとなんとなくわかったような気持ちになってくる。売れている理由はそのへんにあるのか。
著者は「新しい実在論」なるものを唱える。ぼくらがいようといまいと、ぼくらとは関係なしに世界が存在すると考える形而上学。ぼくらそれぞれに、それぞれの世界があると考える構築主義(ポストモダン)。「新しい実在論」はそのどちらも否定する。まったく新しい異次元の考え方というよりも形而上学と構築主義のいいとこどりというかハイブリッドというべきか。
導入するのが「意味の場」という概念だ。存在する(つまり「ある」)ということは、何らかの意味の場のなかに現れることなのだという。
世界はあるのかないのか。ぼくが世界だと思っているここは、世界ではないのか。本書をもういちど読み直そう。
※週刊朝日 2018年4月13日号