――今回、AERAでは「本と映画」を特集して、ひとりさんにもご登場いただきました。思い出深い本と映画をそれぞれ3作品ずつあげていただきましたが、この6作品も何回も読んだり、見たりしたものですか?

 ちがいますね(笑)。

――えっ。

 今言ってるのとぜんぜん違う(笑)。でも、けっこう繰り返したものもあります。

 最近見て面白かったのが、Appleオリジナルの「テトリス」という映画です。ゲームのテトリスがいかにしてこの世に出てきたかっていう話なんですけど、すっごい面白かったですね。

 テトリスってあるプログラマーが作ったんですけど、国家のものなんですよね。アメリカのゲーム会社や任天堂の間で争奪戦みたいなのが始まって、ゲームの裏側にこんなぐちゃぐちゃしたものがあったんだって夢中になりました。

――楽しいゲームだと思っていたテトリスの裏側には、そんなドラマ性もあったんですね。

 ゲームボーイとかが出る時代なんですよ。一個のゲームでも、コンピューターゲームの権利とテレビゲームの権利と携帯ゲームの権利がそれぞれ分かれていたりする。かなりディープな話なのに、全部実名でやっているのもすごい。任天堂なんて巨大企業は名前を出せそうもないじゃないですか。

 でも、これって「テトリス」だけじゃないんです。最近は、昔なら仮名でやっていたことを全部実名でやるんですよね。でも、日本はまだそのあたりが弱くて、どうしたって仮名になったりする。たとえば、新聞とかテレビ局って、よくわかんない「ニコニコテレビ」みたいな名前をつけられているでしょう。

――視聴者からすると「この会社のことだな」ってわかるのに全然違う名前になっていたりすることはよくありますね。そして、「ロッキー」もお好きなんですね。

「こういう企画で『ロッキー』をあげるなんて」って思われるかもしれないけど、最近若い方としゃべってると、みんな本当に知らないから。僕からすれば、9割以上の人が見ている感覚でいるんですけど、いつの間にか古典みたいになっちゃって、それがすごく悲しくて。

――さみしいですね。

 本当に。あの時代に「ロッキー」を映画館で見た人たちがうらやましいですよ。たまんなかったでしょうね。ファストムービーの話じゃないけど、「今度の休みの日に映画館に行くんだ」って予定を立てて、朝起きて、チケット買って、ポップコーン買って、どんな映画になるんだろうってワクワクしながらみんなで見て、クライマックスであの曲(「The Final Bell」)が流れてって……。帰り道、たまんないでしょうね。

 さくさくってスマホで早送りでみて、おんなじ感情になれるかって言われたら、なれるわけないですよね。もしこれを読んで、「『ロッキー』見てみよう」って思ったら、ちっさいスマホの画面でさくさくっと見てその感覚になれるかっていったら、難しいでしょうね。「ロッキー」こそほんと、腰を据えて見ないと。物語がなんでもないですからね。

 でも、リングに駆け寄るエイドリアンの微妙な表情とか、ああいうのをじっくり見てほしいですよね。ストーリーはたぶん3行で書ける話なんだけど、やっぱり芝居とか音楽とか、全身で感じる映画なんですよ。

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