楽しいときも落ち込んでいるときも、本と映画は私たちの心にいつでも寄り添ってくれます。一方で、近年はコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスという考え方も浸透し、映画を倍速で見る人も増えています。芸人であり、作家であり、監督でもある劇団ひとりさんに作品をじっくり楽しむ意義をお聞きしました。
【劇団ひとりさんがオススメする「じっくり味わいたい」本と映画はこちら】
* * *
――ファスト教養やファスト映画がトレンドになり、一つの作品をじっくり楽しむということが当たり前ではなくなっています。ひとりさんはこうした風潮をどう見ていますか。
最近は作る側もやらせてもらっているから、1.5倍で見られるなんて耐えられないですよね。0コンマ何秒の間を何回も編集し直して、悩んで、これがベストの間だと思っているものを倍速にされる。まいっちゃうなぁって思いはあるんです。
――作り手からすると、嫌な流れですよね。
だけど、自分は見る側になるとまったくやんないかっていうと、そういうわけでもないんですよね(笑)。使い分けのような気もします。ただ情報として頭の中に入れておきたいものは、僕もちょっと早回しで見たり。
――どんな動画を早回しで見るんですか。
僕はゴルフが好きだから、ユーチューブでゴルフ動画を見るときは早回しにします。レッスンには間も何もないわけで、肝心なところだけ見られたらいいやって。
でも、いわゆる作品と言われるもので、自分の血と肉にするためにはじっくり見たいし、もっと言うと一回では足りないというか。昔の話をしてもしょうがないけど、自分が若かったころは映画館に何回も同じものを見に行ったり、ビデオテープを何回も見たり。本だって何回も読んで、気に入ったフレーズは何回も自分のなかで復唱するくらいじゃないと自分のものにはならないですよね。
今はサブスクなんかで手軽に見られるし、一回しか聴かない音楽も山ほどあるわけです。便利にはなっているけど、情報が右から左にどんどん流れていくんで、自分の糧にはならない。いろんな音楽や情報を効率よくっていうのはごもっともなんだけど、いかんせん人間っていうハードウエア自体が追いついていないから、結局記録できないんですよね。もしかしたら、効率がいいようで悪いのかもしれないですよね。
――読んでも自分のなかに残らなかったら、読んでいないのと同じかもしれません。
現にそれですごく開花した人を一人も見たことがないんです。「この人すごいな」っていう人たちは、どっちかっていうと自分の好きなものをどんどん掘り下げて、何回も見て、「その映画のセリフ全部言えます」みたいな人ばかり。そっちのほうが深みがあるし、そういった作品が自分の思考にも影響を及ぼしているんだと思います。