ヒロインのヴィヴィアンは、3番目につきあった男を追いかけ、高校を2年で中退してジョージア州からLAに出てきた。が、すぐに捨てられ、ファーストフード店や駐車場で働くがやがて家賃も払えないくらいに困窮する。故郷に帰る金もなく途方に暮れていたとき、現在同居しているキット・デ・ルカと知りあい、いまの仕事に誘われた。ハリウッドの街角に立つ仕事である。
娼婦たちは、ハリウッド名物の歩道に埋め込まれた星形のプレート(ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイム)の位置で縄張りを決めている。ヴィヴィアンとキットの客引きが許されるのは、ボブ・ホープのプレートからエラ・フィッツジェラルドのプレートまでの間だ。
だが、娼婦たちに未来はない。彼女たちが春をひさぐハリウッドブールバードでは、スキニー・マリーという娼婦が殺害され、警察の聞き込み捜査に住人らが答えている。
「ヤク中のフッカー(売春婦)だった。街角に立って、コカインと交換条件で寝てた」
娼婦にまで落ちぶれたヴィヴィアンにも未来はない。足を洗いたくても、洗えないのだ。劇中には、エドワードとのこんな会話もある。
「初めての日は泣き通しだった。そのうち固定客がついたけど、夢とは大違いよ」
「仕事は他にもある」
「屈辱に耐えるだけの人生だわ」
「きみはとても賢くて……、特別の女性だと思う」
「甘い言葉は信じないわ」
DVDの特典映像でも、監督のゲイリー・マーシャルはこんなことを言っている。
〈ヴィヴィアンには何もない、あるのは夢だけ。エドワードは夢以外、全てを持っている。夢と希望は誰でも持っている、そして、ときに叶う。この二人のようにね〉
ハリウッド界隈の地理に詳しいと言うヴィヴィアンを助手席に座らせ、20ドルで道案内を請うが、ホテルに着いたとき、エドワードが尋ねるのだ。
「ところで、夜の相場はどのくらい?」
「軽く100ドル」
「一晩で?」
「1時間よ」
「もし先約がなければ、ホテルに寄っていかないか」
「いいわ。あなた、何て名前?」
「エドワードだ」
「わたし好みの名前だわ。めぐり会ったのも何かの縁ね」
これが二人の出会いだが、エドワードが投宿するホテルの豪華さに、ヴィヴィアンはあ然とする。
「気に入ってくれたかな」
「見くびらないで。こんなホテル、常連客とよく来るもの」
「だろうね」