エドワードが進めていたモース社の企業買収だが、いざ契約成立という土壇場でエドワードは翻意し、買収から“業務提携”に切り替える。知りあったころにヴィヴィアンが言った“あなたの会社は買収ばかりで何も生み出さないの? 何も作らないの?”の言葉が頭に残っていたからだ。
これに顧問弁護士のフィリップ・スタッキーが激怒し、帰り支度をしているヴィヴィアンのホテルに怒鳴り込んでくる。エドワードは、旧友でもあるこの弁護士だけにヴィヴィアンの正体を明かしていた。
「やあ、また会ったな。エドワードは?」
「あなたと一緒じゃないの」
「ぼくなんかお構いなしさ。もしエドワードがぼくを尊重し、アドバイスに従っていれば10億ドルの商談を不意にせずに済んだんだ。彼はここにいるのかと思った、きみに毒されているからな」
そしてスタッキーは、好色そうな目でヴィヴィアンを見やる。
「相談だが、ここは家じゃない。ホテルの一室だ。しかもきみはただの小娘じゃない、売春婦だ。さぞ上手いだろうな。十億ドルを棒に振った罪滅ぼしだ、抱かせろ。きみのせいで大金が水の泡だ。わかるか、ぼくは頭にきてるんだ。身体がムズムズする。一発やれば憂さが晴れてすっきりする」
スタッキーはヴィヴィアンに襲いかかり、ヴィヴィアンも必死で抵抗するが、そのときエドワードがホテルに戻り、スタッキーを殴り倒す。スタッキーを部屋から追い出したあと、ヴィヴィアンにもう一晩、一緒にいてくれと頼むが、ヴィヴィアンはそれをやんわりと断るのだ。
「無理よ。だってあなたは騎士じゃなくて、幸せな王子さまだもの」
ヴィヴィアンは恋人契約料の3000ドルを受け取ってホテルを後にし、エドワードもニューヨークに戻る準備をする。そしてチェックアウトの際、すっかり事情を知っている支配人が独り言のように言うのだ。
「美しい宝は手放すのがつらいものです。そうそう、そういえば、昨日、当ホテルでドライバーを勤めますダリルが、ヴィヴィアンさまをご自宅までお送りしましたな」
空港へ向かう途中、エドワードがダリルに命じて行き先を変更するのは説明するまでもないが、街頭の花売り店で小さなバラの花束を買い――、以降の説明は省くが、リチャード・ギアの出世作『愛と青春の旅立ち』のエンディングのような感動的なフィナーレが『プリティ・ウーマン』にも待っていることだけは触れておこう。幸せな王子さまは、白馬ではなく、真っ白なリムジンに乗る騎士になるのである。
当初、この映画には『3000』というタイトルがつけられていたらしい。エドワードがヴィヴィアンに払う金額の“3000”だ。オリジナルの脚本がタッチストーン社に1700万ドルで売却されたために“後味の悪いエンディング”は書き換えられたが、オリジナル原作について、ジュリア・ロバーツはヴォーグ誌の取材に応えている。
「本当に暗くて、気が滅入る話だった。すごく嫌な二人の、本当にひどくて恐ろしい話。わたしの役は麻薬中毒で、気性が荒くて、口汚くて悪趣味で、知性のかけらもない売春婦だった。エドワードはすごくお金持ちでハンサムだけど、でもすごく嫌な人物だった。そのすごく嫌な二人の、本当におぞましい、ひどい話だったのよ」