テーブルマナーも支配人に教わり、蓮っ葉な娼婦から見違えるようなエレガントな女性に変身したヴィヴィアンはそつなくディナーをこなす。だが、買い物に行ったらみんなに意地悪されたと愚痴ると、翌日、エドワードはヴィヴィアンを連れてブティックをまわる。大金持ちにエスコートされたヴィヴィアンは、今度は店内のスタッフ全員にちやほやされ、次から次へと洋服の試着を勧められるのだ(このときBGMでロイ・オービンソンの“プリティ・ウーマン”が流れて映画は盛り上がります)。
買い終えたブランドショップの紙袋を両手に持ち、きれいに着飾ったヴィヴィアンを通行人がまたもやじろじろと見るのだが、今度は羨望が入り交じった視線だ。そして、前日ヴィヴィアンを追い払ったブティックを訪れる。店員の態度は慇懃なものに変わっている。
「ねえ、あたしを覚えてる?」
「いえ、初めてお目にかかるかと」
「あら、昨日、コケにしてくれたじゃない。あなたは歩合給で働いてるの?」
「ええ、まあ」
「ほほ、逃がした魚は大きいわよ。それじゃ失礼するわね、他にも買い物があるの」
惨めな思いをしたヒロインの意趣返しは、視聴者も快哉を叫ぶところだ。
企業買収の契約を結ぶ前夜、ヴィヴィアンは眠りについたエドワードのくちびるにそっと自分のくちびるを重ねる。エドワードは目ざめ、二人はくちづけを交わす。娼婦のルール違反だが、翌日には二人に“契約満了”の別れが訪れるのだ。
「今夜でお別れだ。明日はきみに捨てられる」
「手が焼ける客だったわ」
「ニューヨークへ帰る。また会いたい、本気だ。きみのためにアパートと車を用意した。買い物をするとるときは歓待するよう店に言っておいた。手配済みだ」
「他には? 枕元にはお小遣い?」
「違う。きみは誤解している」
「何がよ」
「もう街角には立つな」
「わたしに“囲われ女”になれって言うの」
二人は互いに惹かれあっているのだが、現実がそれを許さない。ヴィヴィアンが言う。
「子どものとき、悪いことをすると屋根裏に閉じ込められたわ。でもわたしは塔に幽閉されたお姫さまになった気がした。いつか白馬にまたがった騎士が剣をかざして助けに来るって。そうしたらわたしは手を振る。騎士は塔をよじ登り、わたしを救い出してくれる。でも夢の騎士はこうは言わないわ、ベイビー、高級アパートに囲ってやるなんて」
「受けてほしい。これがいまのぼくにできる精一杯の気持ちだ」
「わたしにはもったいない申し出だわ」
「街の女扱いはしていない」
「したわ」