その中身はというと、合格者の出身高校だけでなく、合格者氏名を本人の許諾なしに掲載するという、いまでは考えられないような内容だ。
この年には「教駒、麻布、開成、武蔵、灘など超一流中学合格者の小学校別徹底研究」(2月20日号)という特集がある。
タイトルだけ見れば、難関中学校にどの小学校から入っているかという記事に読める。だがページを開くと、生徒の氏名は載っていないものの、保護者の職業や勤務先が載っている。大手企業の場合は、会社名や「課長」といった肩書まで掲載されている。これが中1だけでなく中2、中3の情報も載せてあるから驚きだ。ただ、当時のプライバシー意識はこれが当たり前だった。
『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)などの著書がある、東大合格報道の歴史に詳しい、教育ジャーナリストの小林哲夫さんはこう話す。
「49年から75年まで、東大は合格掲示板には受験番号と氏名が掲示され、記者には出身校が発表されていました。この期間は、『東京大学新聞』では合格者の全氏名と出身校を載せていました」
■出身校を特定し「特ダネ」と報道
ところが76年以降、東大は出身校を明かさなくなり、出身校の所在地だけを発表するようになる。
そのため、東大が出した「合格者名と出身高校都道府県」の情報だけを頼りに、マスコミが独自取材で出身高校まで特定し、「特ダネ」として報じるようになった。合格者のうちどこまで特定できたかの「判明率」も競争のタネとなった。
当時の週刊朝日では、朝日新聞の地方支局の記者まで動員して、「特定作業」に追われていたという。
往時を知る編集部のスタッフが振り返る。
「午後5時ぐらいに通常の仕事を終えると、机の配置を変えて電話機を並べ、編集部員やアルバイトが総出になって、とにかく電話をかけていました。当時は個人情報意識も薄く、向こうも誌面に載ることをうれしそうに、喜んで教えてくださる方が大半だったのを覚えています」
この態勢は86年まで続いたが、その後、東大合格速報ともども、ぱたりとやめてしまう。