広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。
アフリカの取材で困るのが、現地の取材を手伝ってくれた人へのお礼だという。今回は、岩崎さんがアフリカで出会った人たちとの、心温まるお話を紹介します。
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現地で取材を続けていると、どうしてもお礼を渡したいと悩むことがある。
終日私に同行してくれて、労を買って出てくれた人に向けて、なにか恩返しをしたいのだが、興ざめとならない方法、これがなかなか難しい。
私の取材スタイルの場合、初めて訪れる地に着くなり、ガイドや通訳を探すことはなく、できるだけ自力でその土地に入り込んでいくようにしている。そうしていくうちに、ここを紹介しよう、この人に会って話すといいと助言をしてくれる人が現れ、その助言に従いながら、その地域もしくはコミュニティーのさらに深部へと分け入っていく。
その途中で助言してくれる人や手助けしてくれる人は、ほぼ善意で私に寄り添ってくれる。そのような方々とは、取材者と取材協力者の関係というよりも、志をともにした友人、場合によっては(アフリカで言うところの)兄弟のような関係になることが多い。
ただ、いくら善意とはいえ、数日にわたる時間や労力を割いてくれた場合、さすがにお礼を渡したい気持ちになるのだが、そこでお金を渡してしまうと、せっかく築き上げた関係にヒビが入ってしまいそうになることがある。
トーゴの首都、ロメ周辺での取材では、友人のカムランがバイクで数日間にわたって同行してくれた。ひと通りの取材を終え、私の感謝の気持ちとしてお礼を渡したいと話すと、彼は首をプイと横に振った。
「ユウイチ、僕はユウイチが考えていることに賛同して、ユウイチを手伝いたいから、だから一緒にいたんだよ。お金が欲しかったからじゃない」
空港で、国境で、建物の入り口で、「ようこそ、友よ! なにか手伝いましょうか?」と声をかけてくる輩(やから)には、アフリカのどの国を訪ねても出会う。そのような場所や局面で、私がほんとうに助けを必要としていたことはなく、うっかり手伝ってもらうと、法外な金額を要求される事態が待っていることが多い。
私がお礼を渡したいと申し出たことで、一瞬でも、そのような金を求めて群がる輩と同じように、私がカムランのことを思ったと感じられたかもしれないと思うと、寂しい気持ちになった。
2010年の南アフリカW杯に湧く南アフリカのヨハネスブルクでは、エルビスにずいぶんと世話になった。勘所もないままにひとりで歩き回るのは難しいヨハネスブルクを、ともに練り歩き夜の盛り場をいくつも訪ねた。頭の回転が速く、細やかな配慮を常に欠かさないエルビスは、私にヨハネスブルクを紹介してくれる前に、やんわりと、機先を制した。