新人の21年から3年連続20本塁打と長距離砲としての才能は光っていたが、本塁打王を分け合ってきた岡本、村上と競い合うステージまでは到達していかなかった。昨年は自己最高の打率.268をマークしたが、16本塁打は入団以来最少の数字に。巨人、阪神で現役時代にプレーした球界OBは同情的な見方を示す。
「岡本は東京ドーム、村上は神宮と本塁打の出やすい本拠地球場をホームにしてプレーしているのに対し、佐藤輝はなかなか本塁打の出ない甲子園で、左打者という圧倒的に不利な状況です。右翼に引っ張った打球は浜風に押し戻されてなかなかフェンスを超えない。昨年も見ている限りでほかの球場なら本塁打の打球が3、4本外野フライになっている。正直、阪神に入団した時点で本塁打王を狙うのは至難の業だと思いました」
阪神の選手が本塁打を量産する難しさは、歴史が物語っている。生え抜きの左打者でシーズン30本に到達した選手は、1985年の掛布雅之氏の40本塁打にさかのぼる。当時は外野のフェンス前にラッキーゾーンが設置されていたことも考慮しなければいけない。1991年に撤去されて以降は本塁打を打つ難易度が格段に上がった。コロナ禍でシーズンが120試合制だった20年に右打者の大山悠輔が28本塁打をマークしたが、岡本が31本塁打でタイトル獲得にあと一歩及ばなかった。
2段階ぐらい上がった
今年は岡本、村上が故障で長期離脱したが、佐藤輝がシーズン40本塁打を超えるハイペースで本塁打王に向けて独走している。覚醒の理由はなんだろうか。セ・リーグ他球団のスコアラーは、佐藤輝の変化を口にする。
「ボール球に手を出さなくなりましたよね。試合前のバッテリーミーティングで外角に落ちる球と内角高めの速い球で打撃のバランスを崩すように確認していましたが、今年はボール球になる誘い球にのってこない。カウントが苦しくなるのでストライクゾーンで勝負せざるを得なくなり、痛打を浴びるパターンが多い。重なるのが三冠王を獲得した時の村上です。ボール球に手を出さず、甘い球をきっちり仕留めていた。佐藤輝も粗さが消え、打撃のランクが一気に2段階ぐらい上がった感じがします」