お風呂の研究はそれまで、実験室規模での単発的な研究が多かったのですが、私は入浴事故の全国調査からスタートしました。近年行っている調査では長期にわたり入浴を習慣化することで介護予防につながったり、うつ病を抑制したり、認知症を防いだりする効果があることがわかってきています。
温泉の効果に関する全国的なエビデンス
温泉に関しても「なんとなく健康に良さそう」というパブリックイメージがあるものの、あまり全国的なエビデンスは蓄積されていませんでした。
私は東京都市大学で教鞭をとる一方で、一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所の所長として、温泉に関するさまざまな研究もしています。その流れで、冒頭に紹介した環境省の全国「新・湯治効果測定調査プロジェクト」をお引き受けしたというわけです。その結果や近年の温泉の効果などを取りまとめ、深く掘り下げたのが本書です。
正しい知識が身につけば意識が変わる
温泉やお風呂は私たちにとってはあまりに身近で、正しい入り方や温泉の選び方を学校で学ぶことはありません。しかし、環境や変化が激しい時代こそ、温泉やお風呂を上手に活用して、適切にストレスコントロールする力を身に付けることはとても大切です。本書は25年にわたりお風呂や温泉について、第一線で研究してきた医師である筆者が、その目的にかなう内容をわかりやすくお伝えしています。正しい知識が身につけば、これまでなんとなく入っていた、毎日のお風呂への意識が変わるはずです。また、入浴法を意識することで自分の体の変化にも敏感になることでしょう。自分の体の変化を確認しつつ、本書を参考に自分に合う入浴法を見つけていただければと思っています。

※『医師が教える温泉の教科書』(朝日新聞出版)から一部抜粋
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