また、日本では温泉は観光の1つと位置付けられていますが、フランスでは温泉療法という医療行為になっており、医学的研究の対象になっています。
リフレッシュ方法に、温泉を候補に入れてみたいと思っていただけたなら、その詳細を解説した本書をご活用いただければ幸いです。
約25年間にわたりお風呂や温泉を研究
申し遅れましたが、私の自己紹介をさせていただきます。
私は約25年間にわたりお風呂や温泉の研究をしている医師で、もともとは内科医として、宮城県の仙台から遠く離れた山間(やまあい)や沿岸部の、いわゆる遠隔地の病院に勤務していました。これらの医療機関では医師も少なく非常に高齢化が進んでいる地域で、寝たきりになった高齢者やそのご家族からよく寄せられていたのが「お風呂に入れない」という相談でした。
元気なときには気づきませんが、浴槽の縁を乗り越え、さらに滑りやすい底面に着地するのは、体の弱った高齢者にとって危険な動作です。そこで、救世主となり得るのが居室内に浴槽を設置して、看護師や介護職員が入浴をサポートする「訪問入浴」という介護サービスです。
寝たきりの高齢者は、浴槽を積んだ訪問入浴車が来る日を本当に楽しみにしており、今か今かと待ち構えているわけですが、中には興奮により血圧が上がってしまう方もいらっしゃいます。そうなったら、高血圧による入浴事故などの危険を回避するため「今日はお風呂を止めましょう」と言う看護師と、どうしてもお風呂に入りたい患者さんとの間で攻防が繰り広げられることは少なくありません。
そのような理由で、私のもとには入浴可否の判断に困った看護師からよく相談の電話がかかってきました。しかし、当時は「血圧がいくつ以上だったら入浴してはいけない」という明確なガイドラインはなく、曖昧な返答しかできなかったのです。
地域医療の現場で起きている困りごとをこのまま放置するのは良くないと思い、大学に戻ってお風呂の研究をすることになりました。