2022年12月、現役引退を表明した金子千尋コーチ(日刊スポーツ)
2022年12月、現役引退を表明した金子千尋コーチ(日刊スポーツ)

打者が嫌な球を投げることへのこだわり

 金子コーチが現役時代に対戦した他球団の打者は、「直球が145キロ前後と決して速くないんですが、こちらの考えを見透かすかのように変化球でタイミングを外される。抜群の制球力で投げミスがほとんどないんですよね。特にチェンジアップは途中まで直球と同じ軌道なんですけど、打ちにいくと急激にブレーキがかかって落ちる。魔球でしたね。あのころのパ・リーグには日本ハムのダルビッシュ有(現パドレス)、楽天田中将大(現巨人)、西武の涌井秀章(現中日)など凄いエースがいましたが、打ちにくさで言えば金子さんが一番厄介でした」と振り返る。

 頭脳的な投球スタイルだけでなく、10年は204回1/3、13年は223回1/3といずれもリーグトップのイニング数を投げるなどタフネスさも知られていた。穏やかな空気を身にまとっているが、心の芯が強かったことを、当時取材したスポーツ紙記者が証言する。

「奇抜な髪形など個性的なイメージが強いかもしれませんが、自分の信念を持っている人でしたね。投手は自分のベストの球を投げたいって考えがちですが、金子さんは違うんです。投手がベストだと思っても打者から見たら違う。打者目線で嫌がる球を投げることにこだわっていました。14年の球宴に出場した際、『真っすぐだけでは抑えられない。シーズン通りに変化球を使って投球したい。全力で変化球を投げているのを見てほしい』とコメントしたのが印象的でした。この時は高卒2年目の大谷翔平(当時日本ハム、現ドジャース)が球宴新記録の162キロを出し、藤浪晋太郎(当時阪神、現DeNA)も剛速球で沸かせましたが、金子さんは宣言通り変化球を丁寧に投げていた。自分のスタイルを貫き、ブレなかったですね」

 現役時代から投球のメカニズムを解析するのが好きだった金子コーチは、選手のデータを分析し、技術指導で長所を伸ばす現在の仕事が天職かもしれない。現役引退後、米国でコーチ留学をしたことも良い経験になっているのだろう。

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