
アクもうま味。そのスタイルが、家庭料理に悩む人たちを引き付けるのかもしれない。壮絶な半生と料理哲学を語りつくしたリュウジ氏の最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けする。
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人数が増えても大好評だったのは豚汁です。
実はこのレシピの基本は、2章で紹介したわが家のモツ煮なんです。豚汁を味噌汁として捉えるのではなく、根菜類と肉を煮込んだものとして捉えたんですね。俺の豚汁は煮込み料理なんだと位置付けて、最初からガンガン味噌を入れて煮込みます。
味噌の風味は、溶いて少し火を入れるタイミングで一番感じられます。だから味噌汁を作るなら、味噌は最後に入れるのが普通です。
でも俺の豚汁は味噌汁じゃないから、味噌の風味を重視しないで、調味料として使います。出汁は少しの白だしで十分。適度に下味が付く上に、味噌との相性がいいんですよね。
アク取りもまったく必要ない。アクもうま味なので、そのまま汁に溶け込ませてしまえばいいんです。
仕上げにネギ、ニンニクと生姜を風味づけに使う。だから味としてはモツ煮っぽさもあり、味噌ラーメンのスープっぽい感じもします。
料理が人生を切り開いてくれた
実はこれが、おじいちゃんおばあちゃんたちにとって大事なんです。人間、年を重ねれば重ねるほど最初の一口が大事になります。刺激の薄い一口より、風味をしっかり感じるような一口を欲するんです。
でも、だからといって塩分に頼ってしまうと、塩分過多で身体によくない。俺のレシピは言うほど塩気は強くないですが、一口目の感覚は大切にしています。
おかずとしても食べることができて、汁物ひとつで栄養価もばっちり。あまりにも具沢山だからこれとご飯で十分だ、とみんな言っていました。
おじいちゃんおばあちゃんたちに「これ味噌汁じゃないんだよ。煮込み料理なんだよ。白だしと味噌を掛け合わせて煮込んでるから、具材に味が染みておいしくなるでしょ」と説明すると、なるほどって納得してくれるんです。
うまい家庭料理はめちゃくちゃウケるし、みんなに優しい。
レストランをやりたいという夢はあっさり破れたし、もう料理なんていいやって思っていたけど、気づいたら料理に救われていました。
またしても、料理が俺の人生を切り開いてくれたんです。
(リュウジ・著『孤独の台所』では、実家全焼、世界一周、料理人修業の挫折といった過酷な経験と、それを経てたどり
