女性客から「かわいい」の声が

「芸名を三遊亭歌武蔵。本名を(変な笑顔を作って)石破茂と申します。……この挨拶、長くはできないかも(笑)」

 昔、相撲取りだった歌武蔵は相撲漫談「支度部屋外伝」を演じ続けているが、中身はその時々の相撲界の事情を反映させて、微修正をしている。

「昨年11月、惜しくも亡くなった北の富士さん。チャーミングで、大好きでした。コロナで無観客。土俵下に転がる力士を見て、『いつもならお客さんがいて、クッションになるのに』と呟き、担当アナウンサーが慌てて『お客さんはクッションじゃありません!』」

「今場所は、琴櫻の横綱、ダメでしょう。豊昇龍はもう少し寄り切り、押し出しが増えれば横綱もあり得ます(1月場所で優勝し、横綱昇進を決めた)」と、最後は自ら真面目に解説した。

昼の主任柳家小満んと夜の主任柳家さん喬
昼の主任柳家小満んと夜の主任柳家さん喬

 円歌は相撲取りではなく、「先代円歌」の逸話を語る。

「令和元年に四代目円歌を襲名しました。先代は小さかった。足湯に肩まで5分。ブランド品しか着ない。ミキハウスです」

 馬の助は「今日は落語家が佃煮にするほど出てくるので、あたしは落語をやらず、古い芸を」と、今では貴重な百面相を始めた。

 手ぬぐいと座布団など、高座にあるものだけを使って、大黒、恵比寿、達磨大師、「花咲か爺さん」の正直爺さんと悪い爺さんになってみせる。時間が経つとアラが目立つと思ったか、どれも一瞬の芸である。最後は、「ぶんぷく茶釜で逃げ出す狸」。隣席の中年女性客二人が「かわいい」とつぶやいた。
 

忘れかけていた正月気分が蘇る

 この時期に八が登場すれば、第一声は「うぐいすの初音」に決まっている。

 丸めた人差し指を加えて「ホー、ホケキョ」。客席が「いい声だなあ」と感心する前に、猫八が「自分で鳴いて惚れ惚れしますね」と自画自賛していた。
 

 仲入前の市馬も落語はやらずに百面相、じゃなかった、自慢の喉で「相撲甚句」を聴かせる。

 ハアー、令和7年、静かに明けてよ〜
 ハアー、初物尽くしの正月、東の客には初日の出〜
 お客様に初詣、初夢、初荷、出初式〜
 肝心要は新宿の、末広亭で初笑い〜(どすこい、どすこい)

 1月も半ばを過ぎ、忘れかけていた正月気分が蘇った。
 

 後半一番手は、本日二度目の歌る多の登場だ。頭、口、両手、右足に、松の絵が描かれた扇を掲げ、さまざまな枝ぶりを表現する「松づくし」。見事なバランス芸を感心して見ていると、「だんだんお客さんの拍手が目減りして来ました。よろしくお願いします」と叱られてしまった。
 

 送りのお囃子が「星条旗よ永遠なれ」

 仲入でドアを開け放していたため、気がつくと、また場内が冷えてきた。今日はコートが脱げない。

 美智・美登コンビが巫女さんのような白と赤の着物で登場。ピンクの巨匠・林家ペーの出番以来、久々に高座が華やかになった。

「私たちのこと、初めて見たって方? (かなり手が上がり)多いわねー。じゃ、お土産マジックね」

 何もない風呂敷からキャンディーを出し、それを客席にばらまいている。もらえるのは前の方の客だけなので、後方の女性客が「ん、もう!」と拗ねている。

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