ミスター武士道:当時の人たちとしては、政元の修験道への傾倒については「なにやら変なことをやっているぞ」と思う一方で、本当に呪いで殺されたりとか、死後に超常的なことを起こされたりするんじゃないかという恐れを抱いていたんだなと思いました。
古野:そうだろうと思いますね。
やはり現代のような科学的な知識や技術がない時代ですから、何らかの事象に対する理由を説明する際に、例えば「妖怪が出たから」「神様の意志が発令したから」といった理由を持ち出せば、聞いた側も、なんだかよく分からないけれど「そうか」と思って納得してしまうという面はあったと思います。
政元の傾倒していた修験の世界の人たちも、祈祷で病気を治したり事件を解決したりといったある種の“実績”を積み重ねていく中で、一般の人には手の届かないことにも手を伸ばせてしまう存在としてみなされていました。
そして政元は、それをかなり極めていて、「空を飛んだ」などという逸話があったりして、「ヘタに歯向かったらヤバいぞ」というような感覚は、当時の人たちはかなり持っていたのではないかと思います。やはり人々が認めるような力みたいなものが流布していたのだろうと思いますし、それによって行政の分野においても言うことを聞いとかないとまずいだろうという圧力にもなったんだろうなと思います。そういった人知を超えた力を、政元という人はうまく利用しようとしたのだろうと考えています。
ミスター武士道:当時の人にとっては本当に恐ろしい存在だったでしょうね。不気味ですし。
《後編へ続く》
ミスター武士道
YouTubeチャンネル「戦国BANASHI」を運営。大河ドラマの歴史解説や、戦国時代を中心にした情報発信が好評を博し、チャンネル登録者数は20万人を超える。NHK大河ドラマ特番にも出演歴あり。 著書に「家康日記」、「鎌倉殿の人物名鑑」など。
古野貢
1968年、岡山県生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(文学)。武庫川女子大学文学部歴史文化学科教授。専門は日本中世史。14~16世紀の政治史、権力論、室町幕府、守護、国人など。著書に『中世後期細川氏の権力構造』(吉川弘文館)、『戦国・織豊期の西国社会』(日本史史料研究会)、『オカルト武将』(朝日新書)などがある。
(文・構成/飯塚大和)
