山崎さん47歳の頃。自宅で長男を抱いて(2005年夏)(写真提供・山崎 薫)
山崎さん47歳の頃。自宅で長男を抱いて(2005年夏)(写真提供・山崎 薫)

(山崎 薫)山崎は初の人生相談本『リスクとリターンで考えると、人生はシンプルになる!』(ダイヤモンド社)で「人生選択の考え方は『投資』に似ている」と書きました。

 先のことを確実には見通せない中、リスクを考えながらできるだけいい結果を求めて、何にかけるかを決める。

「不確実性下の意思決定」という文脈で、がん治療と投資には共通点があります。これはゲーム理論とも通じていて、山崎は最後まで人生というゲームを存分に楽しんだと思います。

(武田)山崎さんのいない今、どんなことを思い出しますか。

(山崎 薫)11時頃に起きて昼食、彼にとっては朝食を一緒に作って食べて、コーヒーを飲みながら新聞を読み、原稿を1本仕上げて夕方近くに出かける。これが日課でした。

 今、昼食を作っていると、彼と一緒に何かをすることはないんだと思います。

「失敗・成長の法則」

(武田)山崎さんの印象的な言葉は?

(山崎 薫)「失敗・成長の法則」です。これ、人は失敗を乗り越えて成長するっていう話ではありません。

「隠したウソや失敗は隠しきれなくなるまで大きく育つ」。育ったあとはどうなるか? たいがい破綻(はたん)します。山崎が見いだした法則です。

 古くは簿外債務が発覚して大手証券会社が破綻しました。少し記憶に新しいところでは、中古車販売会社で保険金の不正請求が明るみに出ました。

 課長レベルで不正をストップして謝っておけば世間に許してもらえたかもしれませんが、社長レベルで会社全体で隠していたら、もう許してはもらえません。

 こういった大きな話ではなく、子育てやパートナーとの関係といったプライベートでも「失敗・成長の法則」は効くなぁと私は思っていて、心に留めています。

(武田)投資家のみなさんに山崎さんが一番伝えたかったことは何でしょう。

(山崎 薫)「必ず勝てる方法」ではなく、「正しく考える方法」ではないかと。何かを研究し尽くしたり、大きな資金があったりすれば投資に成功するわけではないですよね。運用には何らかの不確実性が伴い、勝ちも負けもあって。

 ゲーム感覚でマーケットを楽しむには、知識や理論を持ったうえで運を受け入れ、自己を律し、その先を考えよう。彼が強調していたことは、こんな感じではないでしょうか。

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