茅葺き屋根の古民家(Illustration:杉本彩子〈kucci〉)
茅葺き屋根の古民家(Illustration:杉本彩子〈kucci〉)

 本書には、杉本さんの自宅や今はなき杉本さんの育った家のほかに、モダンアートのような家、収集品であふれる家、茅葺き屋根の古民家、米軍ハウスなどなど、都会、田舎、海外とさまざまな家たちが並ぶ。中でも印象的なのは福井県のY邸だ。

家と環境の再生

 コロナを機に福井の父の生家の納屋を改築し移住したYさん夫婦は、苦労の末に住まいをほぼ完成させた直後に大雨の洪水被害に遭ってしまう。運よく納屋ハウスは無事だったが、付近のすべては変わってしまった。夫婦は復旧の過程で治山に取り組み、さらに、風力発電施設や砂防ダムなど、一般的には環境に配慮したとされているものにも疑問を呈していく。その姿に杉本さんは寄り添い続けた。

「環境問題については、調べていく中で学びました。風力発電についても、今は政府からの補助金がかなり出ているそうなので、風が見込めないような地域でもとりあえず建ててしまおうと計画が進んでしまうことがあるそうです。砂防ダムという施設についても何のためにあるものなのか、改めて理解していった感じです。『家』を見つめる過程の中で、昨今、多発する土砂災害の要因まで、いろんなことを学ばせてもらいました」

 この本のサブタイトルは“俯瞰イラストで巡る「おうち」考現学”。今和次郎の詳細なスケッチが大正時代の生活を今に伝えるように、この本もきっと「今」の重要な証人になるに違いない。

(ライター・濱野奈美子)

AERA 2025年7月7日号

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