バナナの葉が生い茂る米軍ハウス。この家はハウススタジオになっていて、先日、『ホーム・スウィート・ホーム』のトークイベントも開催された(Illustration:杉本彩子〈kucci〉)
バナナの葉が生い茂る米軍ハウス。この家はハウススタジオになっていて、先日、『ホーム・スウィート・ホーム』のトークイベントも開催された(Illustration:杉本彩子〈kucci〉)
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 杉本彩子(kucci)さんが丹念に描き出した16軒の「家」。『ホーム・スウィート・ホーム』はその住人たちの物語を垣間見るような作品だ。一軒一軒から、その生活、信条、社会との関わりなどが鮮明に浮かび上がる。AERA 2025年7月7日号より。

【イラスト】思わずのぞき込んでしまう「茅葺き屋根の古民家」

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「家」というものはつくづく住人そのものなものなんだな。そう思ったのは、AERAでは立体イラスト(人形やジオラマを作って写真に撮ったもの)でお馴染みのkucciさんが、本名の杉本彩子名義で出版した『ホーム・スウィート・ホーム』を見たからだ。

 タイトルのとおり主役は「家」。詳細な俯瞰図と膨大な量のイラストカット、さらに絵に負けない熱量の文章で事細かに紹介された16軒の家たちはあまりにも個性的だ。それらと誠実に向き合い、真摯さと切実さをもって作品に仕上げた杉本さんの情熱には心から感服する。

神は、細部に宿る

「取材の大変さがよく分かっていなかったからこそできた感じです。5時間くらい話を聞いた人もいたのでテープ起こしが大変でした。資料写真はiPadで撮りました。広角レンズだと広範囲に撮れるので俯瞰図を描くには便利ですが、歪みが強く出るので、イラストに描きそうなものは標準レンズで撮る。iPadだとすぐ切り替えられるから便利でした」

 構図を考えている時が一番ワクワクする時間だそうだ。

「でも、いざ物を描き込んでいく段階になると、撮りためた写真をひたすら見返す作業になる。一軒につき数百枚も写真を撮ったので、あとから探すのが大変でしたが、インタビューにしても写真にしても膨大な記録をした分だけ、内容に厚みを持たせることができたかなと思っています」

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