この結果、すべてのプラークの58.4%(150人)にポリエチレンが検出され、平均濃度は21.7μg/mg だった。また、12.1%(31人)からはポリ塩化ビニルも検出され、平均濃度は5.2μg/mgだった。

 電子顕微鏡では、免疫細胞やプラークの破片の中に、鋭角で不規則な形状の異物が観察され、一部は塩素を含むことが示された。さらに組織内に含まれるポリエチレンの量と、炎症マーカーの値が相関していた。

 これらの事実は、マイクロプラスチックが組織に炎症を引き起こしている可能性を示唆している。

 そして、主要な評価項目である心筋梗塞、脳卒中、または全死亡との関係を見ると、プラーク内にマイクロプラスチックが検出されたグループは、検出されなかったグループと比較して、それらの病気の発症や死亡リスクが有意に高く、マイクロプラスチックが検出されていない人を1と見た場合のハザード比は4.53と報告された。

「喫煙で肺がん」と同レベルのリスク

 心筋梗塞、脳卒中の原因は慢性炎症と考えれている。これまでは肥満や高血圧との関連が注目されてきたが、どうやらマイクロプラスチックの影響も大きそうだ。

 研究によって異なるが、肥満や高血圧で心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるといっても、そのリスクは1.5~3倍くらいだ。この研究で示された4.53というリスクは、日本人での“肺がん発症における喫煙の影響”と同レベルだ。早急な対応が必要である。

 本稿では詳述しないが、類似の研究結果はほかのグループからも報告されている。4月3日に『ネイチャー・メディスン』誌に掲載されたニューメキシコ大学ヘルスサイエンスセンターを中心とした研究チームからの報告だ。マイクロプラスチックが認知症の発症のリスクファクターである可能性を示している。

 以上が、マイクロプラスチックの健康問題に関する世界の認識で、日本も早急な対応が必要である。

 興味がある方は、是非『ネイチャー』など海外の科学雑誌をチェックしていただきたい。『ネイチャー・ブリーフィング』など無料のメールアラートがあり、編集部が重要視する情報を毎日送ってきてくれる。必要な情報は、自宅や職場にいながらにして、世界中から自分で集めることが可能である。

(上 昌広:医療ガバナンス研究所理事長)

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