明治大学農学部の作山巧教授(本人提供)
明治大学農学部の作山巧教授(本人提供)

「都議選で自民党が負けており、厳しいのはわかっている」

 陣営も今回がこれまでにも増して厳しい選挙戦を強いられていることは認識している。

 JA全中の組織改編も微妙な影を落とす。JA全中は長らく、全国の農協を指導したり、監査したりする権限を持っていたが、政府は15年に制度を変えた。全国の各農協の自主性を高めるためで、JA全中は農協法に基づく特別認可法人から、一般社団法人に鞍替えし、グループの代表機能や総合調整機能、経営相談機能などと業務が限定された。

 さらに農林中央金庫も外国債券の運用に失敗し、25年3月期は約1兆8千億円の連結純損失を計上。全国の農協などに還元してきた約600億円分の配当がなくなった。農水省のまとめでは、全国537の農協(23年度)のうち、農産物の生産・販売(経済事業)で74%の401農協が赤字となっている。農林中金からの配当や利息、共済といった金融事業で黒字化しているところが多く、本業の農産物でもうけられないという構造的な課題を抱え、足腰が弱まっている。

 農家の減少も著しい。政府の統計によると、主に農業に携わる人は05年は約224万人だったが、24年は約111万人と半減している。

 集票機能の弱体化が否めないなか、コメ高騰はさらなる逆風になりかねない。JA全中の元幹部は「今回は相当厳しい」と真顔で話す。「逆に結束力が高まる」との見方もあるが、「郵便局長会から支援は頼まれたが、農協からは来ない。農家の関心や活動が弱まっている」(コメ農家)との声もあった。

 国民は参院選でどんな意思を表すのだろうか。

■元農水省官僚で明治大学農学部の作山巧教授の話

 生産者団体として「自らの思いを少しでも国政に」と、農協組織が組織内候補を出すことは理解する。ただ、当選したとしても政策に大きな影響を与えることは難しいのが現実だ。実際、第2次安倍政権は、規制緩和を進めるため、官邸主導で農協改革に打って出た。官邸の力が高まっていて、自民党農林部会の議員たちもこの流れに乗らざるを得なかった。
 一方で、今回のコメ不足は大きな社会問題となり、連日、メディアで取り上げられた。コメ不足の原因に、政府や農協による事実上の減反(生産調整)政策があることは明白だ。減反政策を続ける限り、このような事態は今後もあり得る。減反をやめて、コメの生産を農家の自由な判断に任せ、不作や価格の急激な下落時の所得補償制度を整えるという考えもある。石破茂首相は所得補償にかねて関心を示しており、今後、日本の稲作や農業をどうするのか、ぜひ参院選で議論になってほしい。

(経済ジャーナリスト 加藤裕則)

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