地方では人脈が重要だ。祭りを手伝って信頼を得た人もいるという(写真:gettyimages)
地方では人脈が重要だ。祭りを手伝って信頼を得た人もいるという(写真:gettyimages)
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 夫や親の家業の跡継ぎとして女性が社長に就くことも近年珍しくない。しかし地方特有の人間関係や男社会の文化に接し、当事者からコミュニティーサイトには様々な声が寄せられた。中には自分らしいビジネスで壁を乗り越えた女性も。AERA 2025年6月30日号より。

【気になる数字】都道府県別・女性社長の比率

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 夫や親、勤務先の経営者が倒れるなどの理由で、事業継承に直面するケースは全国各地である。東京商工リサーチの2024年の「全国女性社長」調査によると、全国に一定数の女性の経営者がいるが、人間関係が濃密な地方だった場合、その悩みは特に深くなりがちだ。

 全国の経営者が思いを共有できるコミュニティーサイト「どうだい?」には、様々な声が寄せられているが、目を引くのは地方の女性経営者からの投稿だ。

「仕事、子育て、家事に忙殺されながら踏みとどまっています」(和歌山県)、「親の介護をしながらなので、仕事の拡張ができない」(北海道)といった都市部にも通じるものもあるが、人間関係が濃密な地方ならではの声もあがる。

「すぐに『女のくせに』と言われてしまう」(宮城県)

「男社会で女性経営者が孤立する」(福島県)

「どうだい?」の運営を担当する大同生命保険の尾崎遥香さんは、こう指摘する。

「東京ではサービスの内容、プロモーションがうまいかどうかで選ばれます。でも、地方では『あの人ならお願いしようかな』『地元出身だから安心できる』といった人脈の影響が大きい」

「私が継がなければ」

 そこに加えて、女性であるというだけで、ビジネスのハードルが上がる現実がまだあるのだ。

 そんな地方で壁を乗り越えてきたひとりが、宮城県塩釜市の佐藤千晶さん(58)だ。30年前、突然15店舗の貸店舗を抱える家業の酒販店を継ぐことになった。

 3代続く酒販店の長女として生まれ、大学卒業後はニッカウヰスキーに就職。同僚と結婚して、山形に住んでいた28歳のとき、父が胃がんに倒れた。「このままでは家業が存続できない」という状況を聞いて「私が継がなければならない」と決意。夫婦で退職して地元に戻ったという。

 だが、周囲は冷たかった。「女のくせに」「若い娘に何ができる」と取引先を奪われそうになった。しっかりしていると見られるようにブランドのスーツを着ると「親の金で買ったのか」と言われて悔しい思いをしたこともある。当時0歳だった子どもを抱えて、涙を流す日々だった。

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