
つらい思いをしながら仕事に向き合うなかで、気になったのは、取引先や配達先がときどき口にする「お店を移転したいけれどどこかに良い場所はない?」「お店を出したいから出店までいろいろ相談に乗ってほしい」などの悩み。会社員時代に宅建資格を取得していたこともあり、これを新規ビジネスにしようと思い立ち、不動産会社を立ち上げた。
最初は「不動産屋の真似事か」「家計が大変なのか」と詮索されることもあった。それでも、相談に来る地域の人たちを「放っておけない」と思い、利益度外視で話を聞いたという。だんだん新規出店のサポートやプロデュースの依頼がたくさん入るようになり、今では土地売買に関わる問題から飲食店プロデュースまで、事業を展開している。
佐藤さんは言う。
「地域で信用されたんだと思うんです」
ぶつかった経験が強み
一度信用されたら強いのは、地方ならでは。コミュニティーサイト「どうだい?」によると、東京から地方に移住した女性起業家は、地域の祭りにボランティア参加したことがきっかけで、仕事の依頼をもらったという。
大同生命保険の尾崎さんは言う。
「女性による地方での起業や事業継承は、決して不利ではありません。地方では東京で成功しているビジネスモデルを真似しても通用しないことが多く、地域の事情に合わせたサービスでなければなりません。だからこそ、女性たちが地域で壁にぶつかってきた経験が、むしろ強みとなるのです」
地方と一口に言っても、土地柄も課題もそれぞれ。つまり、唯一無二の街で、誰かの真似ではない「自分らしいビジネス」を築くことができるのだ。
前出の宮城県の佐藤さんは言う。
「正直、塩釜のことはダサいと思っていました。でも、東日本大震災のとき、この街を助けたいと思いました。今は『オンリーワンの街』にするために仕事をしたいと思っています」
壁を乗り越えた女性の強さが地方で光っている。
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2025年6月30日号より抜粋
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