はやし・ひろふみ/1955年生まれ。現代史研究者で、沖縄戦研究の第一人者。近著に『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』(写真:本人提供)
はやし・ひろふみ/1955年生まれ。現代史研究者で、沖縄戦研究の第一人者。近著に『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』(写真:本人提供)
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 1945年の沖縄戦から今年で80年を迎える。戦争体験者が高齢化する中、壮絶な記憶をどう継承していけばいいのか。二度と戦争を起こさない仕組みをつくるためにはどうすればよいのか。関東学院大学の林博史名誉教授に聞いた。AERA 2025年6月30日号より。

【写真】壕から出てくる住民を見つけた米兵。沖縄戦では民間人を巻き込む地上戦があった

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 沖縄戦で犠牲になった女子学徒を追悼する「ひめゆりの塔」を巡る自民党の西田昌司議員の発言は、極めて乱暴で、何を根拠に語っているのか不明です。ただ、沖縄戦の実相を歪め、旧日本軍を正当化し弁護するような言説は、西田議員が初めてではありません。戦後の日本社会に、根強く存在しています。

 背景にあるのは、日本の国家としての戦争責任を曖昧にしてきたことです。「戦争が悪い」という抽象的な話に終始し、国が戦争で多くの命を奪ったという視点からの反省や総括が、決定的に欠けていました。沖縄戦に限らず、日本がおこなった先の戦争全体においてそうです。

 沖縄戦においても、自由を抑圧し住民を戦場に動員する上で重要な役割を果たした内務省官僚が、戦後ほとんど責任を問われることなく、自民党の政治家や大臣にまでなりました。つまり「人々を死に追いやった体制」は戦後に引き継がれたのです。こうして戦争責任が問われないまま、旧日本軍や戦時中の行政や教育を美化し肯定する考えが日本社会に根強く残りました。それが、西田議員のような発言を含め沖縄戦の実相を歪曲する動きが繰り返される理由です。

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