にし・ゆら/1994年、那覇市生まれ。会社員の傍ら「あなたの沖縄」を主宰し、沖縄戦の継承活動などに取り組む。コラム集『あなたの沖縄vol.3』発売中(写真:本人提供)
にし・ゆら/1994年、那覇市生まれ。会社員の傍ら「あなたの沖縄」を主宰し、沖縄戦の継承活動などに取り組む。コラム集『あなたの沖縄vol.3』発売中(写真:本人提供)

「軍の強制」の記述が削除、日常から沖縄戦語り継ぐ

 他にも、「天皇陛下万歳」と言って手榴弾で自決した人たちがいたこと、逃げる途中で同級生が「私はやられたよ」と言って死んでいった話──。そんな話を、西さんは物心がついた時から、祖母から何度も聞かされた。怖さはなかった。聞くたびに、「おばあちゃんはこうやって生き延びてくれたんだ」と思った。

 だが07年、西さんが中学1年生の時、高校の歴史教科書の検定で、沖縄戦の「集団自決」をめぐり「軍の強制」の記述が一方的に削除される事件が起きた。

「衝撃でした」

 と振り返る。

 祖母たちは「勝手に死んだ」ことにされた。事実は消されることがある──。怒りと恐怖を感じた。ちょうど祖母に認知症の兆候が出始めた。

「おばあちゃんが話せなくなったら、今度は私が話さないといけないんだ。おばあちゃんの話を覚えていて、私が話す番が来るんだって、その時にすごく思いました」

 大学進学で上京し、そのまま都内の会社に就職。沖縄の本土復帰50年の節目を翌年に控えた21年、ネット上で「あなたの沖縄」というコラムプロジェクトを始めた。1990年代生まれが、それぞれの体験を通して沖縄についてコラムをつづる活動だ。23年からはコラム集『あなたの沖縄』として出版も開始。今年6月に出した第3弾のテーマは「日常から沖縄戦を語り継ぐ」。西さんは、祖母や父、親戚たちと集まり「家族座談会」を開き、祖母の思い出を語り合い、文章にまとめた。

「家族と分かち合った祖母の人生の記憶を、読者にも手渡したいと思っています。その記憶が、読者自身の言葉となって語られ連鎖していけば、沖縄戦は継承されていくはずです」

 最近は、都内の高校でも「祖母から受け取った話」をするなど、活動の場を広げる。

 祖母のように語れない葛藤がある。だが、自分が「どう思ったのか」から語り始めることで、そうならざるを得なかった社会・教育・政治の流れまで伝えられるのではないかと感じている。

「私は沖縄戦の体験者のバトンを受け継ぐ世代」と西さんは言う。知らなければ、同じことが繰り返されるかもしれない。だから、事実を知り、向き合い、語り、そして次世代につなげていきたい、と。

「そうすることで、平和はつくられていくと思います」(西さん)

(編集部・野村昌二)

AERA 2025年6月30日号

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