やがてコロナ禍になると、重症化への不安や持病の悪化、さらに事業を営んでいた父親(80代)が体調を壊し、会社の廃業も迫られた。こうした状況を前に、まず退職して安全な環境で体調を立て直し、父の事業整理にも専念しようと決意したという。
「不安はめちゃくちゃありました。安定収入がなくなる不安、組織人ではなくなる不安。いわゆる、現状維持バイアスが働いていたと思います。世間体も気になりました」

会社員時代のピーク年収超え
ただ、桶井さんは投資歴26 年。退職を決意した当時、1億円の資産を築き、年間配当は手取り120万円あった。また、投資に関する発信をブログ等でしていたところ、それが出版社の目に留まり、退職直前に投資本出版のオファーがきた。その後も立て続けに書籍化の声がかかり、退職後の4年間で単著を5冊、共著を1冊出した。ネット記事の連載も持った。昨年は、会社員時代のピーク年収を超えた。
「会社を辞めて組織人ではなくなりましたが、出版社の方との繋がりで所属欲求は満たされています。世間体は、コロナ禍でリモートワークが普及し、平日昼間から散歩をしている人もいたりして、すぐ気にならなくなりました(笑)」
さらに投資も順調に推移し、2024年末には資産1.8億円、年間配当は手取り250万円に。今は、会社を辞めたことへの後悔も、将来への不安も「1ミリもない」。最も充実した瞬間を聞くと、楽しそうに笑いこう言った。
「出した本が重版になった時です。重版は世間様に評価されたことになるので、『重版になりました』という連絡が編集者から来た時、『やったあ!』って思います」
(AERA編集部・野村昌二)
