また、李氏による政権運営が必ずしも順調にいかない可能性もある。李氏はその厳しい生い立ちから、貧富の格差を緩和するため、社会の富の再配分に関心があるとされる。ただ、韓国にはそれだけの余裕がない。韓国銀行(中央銀行)は4月24日、25年第1四半期(1~3月)の実質国内総生産(GDP)成長率(速報値)が前期比0.2%減だったと発表した。今年4月現在の青年失業率(15~29歳)は7.3%で、悪化する傾向を示している。今後トランプ米政権による高関税政策や国防費の負担増要求に対応する必要があり、厳しい財政運営を迫られることになる。韓国は少子高齢化が進んでおり、社会福祉予算の負担も増える。韓国政府元高官の一人は李在明政権の支持率について「政権発足当初は、戒厳令に対する反発から高い人気を得るだろうが、徐々に低落傾向に移るのではないか」と語る。

反日カード切らない

 李在明氏の政権運営が厳しくなった時、李氏が国内世論、特に自分の支持基盤の進歩勢力の支持を得るため、日本叩きに走る可能性を懸念する声がないとは言えない。

 保守系の韓国政府元高官は「李在明氏は頭が切れる。日本との関係を悪化させた場合、米国や中国に対する交渉力が落ちるし、経済にも悪影響が出る。簡単に反日カードは切らないのではないか」と語る。

 それでも、「李氏は絶対に反日に走らない」と断定する専門家は韓国にはいない。李氏は厳しい生い立ちや闘争を続けて来た過去から、決して自分の本心を他人に見せない。韓国政界の元老は「李在明は自分の心がどこにあるのか、本人も知らないのではないか」と語る。

 李氏は昨年春の総選挙の際、自分に反対する政治勢力をことごとく党外に放逐した。李氏に意見する政治家は現在、党内には見当たらない。李氏が日韓関係をどう扱うのか。韓国の関係者は口々に希望的な観測を口にするが、確信を持っている人は誰もいない。

(朝日新聞記者、広島大学客員教授・牧野愛博)

AERA 2025年6月16日号

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