韓国でよく話題になる「反日運動」はこの政治対立の源流に基づくもので、実は日本の謝罪の有無はあまり大きな意味を持たない。保守系の元政府高官は「進歩が日本を許したら、親日勢力が作った国は誤りだったという進歩のアイデンティティーが崩壊してしまう」と語る。

 ただ、進歩系の韓国政府元当局者は「李在明は民主化闘争や学生運動には参加していない。だから、伝統的な進歩勢力とは言えない」と話す。別の元当局者も「李在明の日本を批判する発言は、政治的な支持を得るためのもの。信念で、元徴用工や元慰安婦に対する謝罪が必要だと考えていた文在寅(元大統領)とは全く違う」と指摘する。

「実用外交」の意味

 李在明氏を選挙戦で支えた陣営関係者は「現在の韓国を取り巻く情勢は厳しい。トランプ米政権が高関税政策を展開し、在韓米軍も再編されるかもしれない。米国や中国に対する発言力を確保するためには日本との協力が必要だ」と語る。これが、李在明氏が選挙戦で語った「実用外交」の意味だという。

 李氏は6月中旬にカナダで開く首脳会議(サミット)に参加する可能性があり、その場合は石破茂首相との日韓首脳会談も行われるだろう。あるいは、7月ごろ、日中韓首脳会議に出席するため、日本を訪れる。日韓協力を打ち出すとみられる。6月22日には日韓国交正常化60周年を迎えるが、李在明政権は、ソウルで中旬に開かれる記念レセプションへの出席も検討している。側近の一人は「レセプションに政府高官が出席するのは間違いない」と話す。

 もちろん、課題もある。尹錫悦氏は日韓関係改善を推し進めたが、韓国内は必ずしも賛成一色ではないという。韓国政府元高官の一人は「過半数の韓国人は韓日関係の改善を歓迎している。だが、市民感情を無視した急激な関係改善に違和感を覚えた市民も少なくない」と語る。尹氏は様々な会議で討論をせず、一方的に自分の指示を強要する場面が目立ったという。このため、韓国内ではむしろ、元慰安婦らの意見に耳を傾けるべきではないかという意見が再び力を得ているという。

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