
「奇界遺産」という言葉を生み出し、番組「クレイジージャーニー」でも注目と人気をほしいままにする写真家・佐藤健寿の、ふとした瞬間に記憶の彼方から現れる光景とは。
【写真】佐藤健寿さんの原点となった佐藤さんの原点となった、2003年撮影の「エリア51」の展示
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「日本の美術大学で4年間、自分でテーマを探して撮影して、コンセプトを考えて作品を発表する、ということを何度もやらされたんですけど、テーマなんて、そんなにないわけですよ」
写真展としては珍しく20代30代男性の姿が多い会場で、若い世代を中心に絶大な人気を誇る写真家・佐藤健寿さんはそう言って笑った。
カメラが進化し、シャッターボタンを押しさえすれば誰でも一定レベルの写真が撮れるようになった現在、写真家を目指す人の多くは、自分にしか撮れない作品テーマを見つけることに最も苦心しているように見える。そんななか、独自の視点で彗星のごとく現れ、「奇界遺産」なる語を広く浸透させた佐藤さんにも、「自分は何やってんだろうか、っていう」時期があったという。
「当時はみんなテーマを探して小難しいことを考えていたんですよ(笑)。僕らは浅田彰をはじめとするニューアカ(デミズム)のギリギリ最後の世代で、コンセプチュアルなこと――例えば人と時間の関係とか、いろいろ言ってなんかしら作品を撮るわけです。でも、本質的にそんなことに興味ないんですよね。かといって、自分が高い意識を持っているとも言い難いアフリカの難民問題とかにテーマを見出すのもおかしなことだし。
その後に通ったアメリカの大学に行っていたときに『アメリカの州を撮影する』という課題を与えられて、子どものころ好きだったエリア51に行ったことで、ただただシンプルに自分が面白いと思うことを初めて見つけたんですよね。
だから、いまやっていることは、これをやったら面白いんじゃないかとか、誰もやっていないからとかいった、打算から生まれたものではない。やりたいことやテーマを探したんじゃなくて、素直に、自分が面白いと思うことをやっているだけなんです」