ダイナミックな守備でファンを魅了し、69年に214守備機会連続無失策を記録した長嶋が、まさかの守乱で期せずして“戦犯”になってしまったのが、70年8月16日の阪神戦(後楽園)。

 1対1の延長12回、先頭打者・池田純一は平凡な三ゴロ。「任せろ!」とばかりに腰を落として捕球態勢に入った長嶋だったが、ボールはグラブの下を抜け、まさかのトンネル。これがケチのつきはじめだった。

 カークランドが送って1死二塁となったあと、鎌田実が堀内恒夫の初球をライナーで左中間に打ち返し、1点を勝ち越された。だが、三塁を欲張った鎌田は明らかに暴走。返球がサードに送られ、タッチアウトと思われたが、なんと長嶋が落球。三塁打にしてしまった。

 そして、2死三塁から佐藤正治の三塁前ドラックバントをタイムリー内野安打にしてしまう。記録された失策こそ1だったものの、いずれも失点に絡むミスターらしからぬプレーは、まさに「上手の手から水が漏る」珍事。巨人はその裏の反撃を江夏豊に抑えられ、1対3で敗れた。

「(池田のゴロは)詰まった打球だったので、丁寧に捕ろうとしたんだが、タイミングが合わなかった。ホリに悪いことをしてしまった」と小さくなっていた長嶋だが、同18日の次戦(ヤクルト戦)では、初回の先制タイムリーを含むマルチ安打で勝利の立役者に。立ち直りの早さも、スーパースターならではだった。

(文・久保田龍雄)

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