長嶋に対する走塁妨害判定がきっかけで、試合が1時間52分も中断したのが、61年9月7日の国鉄戦ダブルヘッダー第2試合(後楽園)。
2対2で迎えた延長11回、国鉄は2死一、二塁で鈴木秀幸がサード・長嶋へのゴロを放つ。捕球した長嶋は三塁ベースを踏んで二塁走者・土屋正孝を封殺しようとしたが、土屋の左足のほうが先にベースをつき、セーフになった。
アウトになったと勘違いした土屋は、いったん三塁を通り越してしまうが、三塁コーチズボックスの砂押邦信監督が「ホームへ行け!」と指差したため、一挙本塁を突いた。
それを見た長嶋は、捕手・藤尾茂に送球。三本間に挟まれた土屋は、三塁方向に戻ろうとしたが、目の前に長嶋が立っていたため、勢い余って抱きつくような形に。直後、藤尾が土屋にタッチしたとアピールしたことから、島秀之助球審はアウトを宣告した。
これに対し、国鉄側はルールブックを持ち出し、長嶋の走塁妨害を主張。約10分後、判定が覆り、土屋のホームインが認められた。
すると、今度は巨人の川上哲治監督と牧野茂コーチが出てきて、「三塁ベース付近で土屋がラインアウトをやっている」と内藤幸三塁審に抗議したが、「土屋はオーバーランしただけ」と認められず。
この間、外野席ではファン同士の喧嘩が始まり、内、外野席から火のついた座布団や紙くずがグラウンドに投げ込まれるなど大荒れ。また、川上監督が試合再開のためベンチ前に戻ろうとすると、別所毅彦コーチが再三にわたってグラウンドに追い返したことから、中断はますます長引いた。
結局、巨人側が連盟への提訴を条件に試合再開に応じたのが午後11時53分。試合終了は翌日の午前0時11分だった。
ところで、問題のプレーは、長嶋が際どいタイミングの三封を狙わず、普通に一塁送球していればスリーアウトチェンジとなり、騒動も起きず、“午前様決着”にもならなかったはず。そんな常人でははかり知れない感覚も、ミスターたる所以である。