生まれ変わった旧小田急車両の出発を見守る小田急電鉄運転手=米倉昭仁撮影
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 西武鉄道は、小田急電鉄から譲り受けた中古車両の改造を終え、5月31日から営業運転を開始する。大手私鉄が他の大手の中古車両を運行するのは極めて珍しい。

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西武鉄道「試乗ツアー」に鉄道ファン

 青と緑の市松模様が施された車両がホームに到着すると、次々にカメラのシャッター音が響いた。

 5月24日午後1時半、西武鉄道・西武新宿駅では、小田急電鉄から西武鉄道へ譲渡された車両の引き継ぎ式が行われていた。新所沢駅までの試乗ツアーも開催され、約100人の鉄道ファンが参加した。

「いつも利用している小田急線の車両が新型(8000系)に生まれ変わった。それが西武の路線を走ると思うと、ワクワクします」と話したのは、神奈川県厚木市から来たという10代の男性。

 小田急線沿線に住む20代の男性(同県伊勢原市)は「西武鉄道に譲渡された車両の内部がどんなふうに変わったのか、楽しみです。これまで4人掛けだった車両端の席がゆったりした3人掛けになったと聞きました。ぜひ座ってみたい」と語り、電車に乗り込んだ。

 この車両、旧小田急車両を、西武鉄道が自社車両として改造したものだ。5月31日から営業運行される。

引き継ぎ式では、かぎを模したオブジェが小田急電鉄の運転手(左)から西武鉄道の運転手に渡された=米倉昭仁撮影

「中古」車両導入のわけ

 西武鉄道といえば、ドーム型の運転席窓を採用した特急「ラビュー」など、新型車両を導入してきたイメージがある。なぜいま「中古」の車両を取り入れるのか。

 背景には、“省エネ”を加速させる取り組みがある。

 西武鉄道は2030年度までに省電力性能に優れた「VVVFインバータ制御車両」の100%導入を目指している。この車両はCO2の排出量だけでなく、使用電力量も削減できる。現在、同社が導入を進めている新型車両はすべてVVVFインバータ制御だ。

 鉄道ライターの小林拓矢さんはこう分析する。

「西武鉄道は、これまでは新造車両を池袋線や新宿線など乗客の多い『稼げる路線(本線)』に投入し、古くなった車両の編成を短くして『支線』にまわすこともありました」

 西武グループは、SDGsへの貢献を積極的に推進している。西武鉄道も例外ではない。

「これまで通りでは消費電力の多い古い車両が支線に長く残ることになり、エコではない。短い編成の新造車両を導入するのも現状では割に合わない。そこで、支線用に、他社から割安で省電力性能のよい中古車両を購入したのです」(小林さん)

生まれ変わった譲渡車両(左)を撮影する鉄道ファン=米倉昭仁撮影
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