杉山さんの取材ノート

──若手では敢闘賞をとったウクライナ出身の安青錦(前頭9/11勝4敗)や、伯桜鵬(前頭7/8勝7敗)はとくに前半戦を大いに盛り上げました

 今場所、平幕でいちばん目立ったのが安青錦ですね。素晴らしいと思います。だんだん相手も彼のことを研究してくる中、それを乗り越えて自分の相撲をとっている。攻めが早いんです。自分から常に動いている。徹底して頭を低くしている。そこが彼の魅力ですね。近いうちに三役になってもおかしくないと思います。

 伯桜鵬は勝ち越しはしましたが、21歳の若さですでに相撲ができあがっている気がするんです。もう少しパワーがついて、立ち合いから一気に相手を攻めるくらいの勢いを持てれば三役もつかめるでしょう。

──「相撲ができあがってしまっている」といえば、尊富士(前頭4/6勝9敗)に対しても杉山さんは同じ指摘をされています。尊富士は優勝経験もありますが、ついに自身初の負け越しになりました

 私は厳しく批判したい。尊富士は今場所の八日目、豊昇龍との初めての対戦で、立ち合いで大きく右に変化しました。横綱に初挑戦する力士がああいう相撲をとるなんて、もっての他です。負けて元々の気持ちで真っ正直にぶつかるからこそ次の展望が開けるのであって、目先の勝ち負けにこだわって初挑戦で変化とは情けない。がっかりしました。評判がた落ちだと思いますよ。

 厳しいついでに言えば、熱海富士(前頭12/8勝7敗)。何とか勝ち越したけど、伸び悩んでいるというよりも、完全に止まっちゃったね。まだ22歳、せっかくいい素質を持っているんだけど、受け身の相撲が増え、半身の体勢になる形がひじょうに目立ちました。これでは彼のすごさが活きないんです。今場所も10番勝ってないとおかしいんですよ。いまいちど初心を思い起こしてほしいですね。

──近々三役の期待もかかる両前頭筆頭、若元春、王鵬はそろって負け越しました(ともに7勝8敗)

 若元春はもう31歳。毎場所いっぱいいっぱいの相撲です。彼の素質をすべてさらけだして頑張っている姿は、賞賛していいと思いますよ。これ以上を期待するのは彼に対してはかわいそうな気がします。

 王鵬は負け越しはしましたが、将来性を感じさせる相撲が何番かありました。攻めの相撲には目を見張るものがあったし、まだ成長の途上にあると思います。大の里と同年代の25歳。伸びしろがありますし、三役復帰の力はじゅうぶんあると思いますよ。

──もう一人、若手で忘れてはならないのが、十両筆頭で二場所連続優勝した草野(13勝2敗)ですね

 来場所、新入幕間違いなしです。自分からどんどん踏み込んで攻めていく。この姿勢が続く限り、どんどん番付を上げていくでしょう。七月場所で二桁勝つようなら、九月場所では前頭の二枚目三枚目あたりに上がり、三役を視野に入れるところまで行ける。

 彼はまだ23歳。なかなか面構えもいいし、大物感がある。すべての幕内力士にとって、末恐ろしいライバルが出てきつつあることは間違いない。今回名前が出た上位の力士たちも、うかうかしてられないですよ、これは。

(聞き手・小長光哲郎)

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