学術会議を政府の意のままに動かす

 朝日新聞の社説(5月8日配信)は、内閣府の担当室長さえ、「自分でも非常にこんがらがって難しい仕組みになってますので」と国会で白状してしまったことを報じている。

 これらの点は、メディアでも報じられているが、それ以外にも、細かいことのように見えて、実は重要な仕掛けがある。現行の学術会議から新しい学術会議に移行する手続きがその一例だ。

 例えば新しい学術会議の会員になる候補者を選ぶために候補者選考委員会が置かれ、その委員は会長が任命するが、会長は任命に際して首相が指定する者(当然首相の意を受けて行動する)と協議しなければならない(法案の附則第6条第5項)。協議が整わなかった時にどうするかは不明だ。政府は人事に介入はしないと言うだろうが、それならば、協議など不要にすべきだ。首相による人事介入の可能性は極めて高いと言うべきだろう。

 また、新たな組織の設立についての事務処理を行う設立委員は、首相が任命し(附則第9条)、設立後、新会長が選任されるまでの間置かれる「会長職務代行者」は、首相が指名する(同附則第8条)。この代行者は成立時総会の運営を取り仕切る(同附則第22条第2、4項)ので、新会長選任などに関して重要な役割を果たす。ここでも首相の影響力が働く。

 一つ一つは小さなことのように見えるかもしれないが、これだけ細かくあらゆる段階で、政府の介入の手がかりを忍び込ませるのは、なぜか。学術会議を政府の意のままに動かすためだとしか考えられない。

 実は、そうした「基本姿勢」の違いを明確に表わす条文がある。現行の日本学術会議法の第3条には、「日本学術会議は、独立して……職務を行う」と規定され、「独立」性が謳われている。

 一方、法案では、「国は、……その運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない」と書き換えられた(第2条第2項)。「独立」という言葉は消え、代わりに入った「自主性、自律性」は単なる配慮事項にすぎない。根本的変更である。

 もう一つ重要な点は、財政だ。

 現行法では、第1条第3項で「日本学術会議に関する経費は国庫の負担とする」と定めている。もちろん、無制限ではないが、学術会議が正当な業務を行っていれば、必要な経費は政府が負担するという趣旨である。仮に政府が必要な予算をつけなければ、法律違反になる。こうした規定を「第1条」に置いたことは、立法時に、財政的支援の重要性が認識されていたことを物語る。

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