トランプ大統領が行なっている「実験」

 大学への支援を大幅に削減し、研究内容に制約を加えていけば、どうなるのか。その実験をトランプ大統領が行っているのだが、実は、日本でも同じような「実験」が行われつつある。

 自民党政府は、国立大学を個々に独立した法人とする改革を2004年から実施した。その後、各大学に対する運営費交付金が削減され、研究者が自由に使える研究費が減った。学問の自由があると言っても、研究費を減らせば、当然研究の自由度は下がる。さらに、競争的環境を整備するという名目で、各大学が政府や経済界などの要望に沿って研究を行えばより多くの資金が与えられ、そうでなければ経済的に干上がっていく仕組みが作られた。政府や経済界への大学の従属性が事実上高まる結果となっている。

 そして、今、さらなる危機が進行中だ。

 5月13日、「国の特別機関」である日本学術会議を特殊法人化する法案が自民、公明両党と、日本維新の会などの賛成多数で衆議院を通過した。立憲民主、国民民主など他の野党は反対し、学術会議は総会決議で政府からの独立が担保されていないとして法案修正を求めていた。

 学術会議の同意を得ないままその組織のあり方を根本から変更するということ自体が、学問の自由を踏みにじるやり方だ。

 法案の詳しい内容については、ネットのニュースなどで見ていただければわかると思うが、念のため、最も大きな問題だとされる会議の独立性に関わるいくつかの点について触れておきたい。

 この法案には、学術会議を実質的に政府の支配下に置くことを可能にするために政府など外部の介入を許す仕組みがいくつも設けられている。

 例えば、学術会議の会員以外の外部有識者が同会議の会員選考に意見を述べる「選定助言委員会」、同様に活動計画などに外部有識者が助言する「運営助言委員会」が設置される他、学術会議内ではなく内閣府に「評価委員会」を設置して、その委員を首相が任命する。監事も首相の任命だ。このように 極めて複雑な組織体系にしたことに政府の意図が表れている。

 直接的に政府の支配下に置く規定を設けると世論の厳しい批判を浴びるため、極めてわかりにくい仕組みを幾重にも重ねるという官僚のテクニックが満載だ。

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