
年間70万円の奨学金が家業の資金繰りに
関係者に衝撃が広がった訴訟だったが、JASSOが公表した「令和4年度学生生活調査」によると、学生の2人に1人が、何らかの奨学金を支給または貸与されている中、奨学金が授業料など学生本人のためではなく、両親の生活費などの足しに使われる事例は他にもある。
東京都の会社員の男性(40)の実家は個人経営のコンビニだ。両親から「大学に行くなら奨学金を借りてほしい」と言われ、第二種奨学金(有利子)を毎月10万円程度、年間約120万円を借りたという。だが――。
「奨学金は両親が管理していたのですが、学費で使う分以外は実家のコンビニの運転資金に充てられていたんですよ。当時、実家のコンビニはまだ経営難で、銀行からも借り入れていました。『その割合を減らしたい』『借りるなら金利の低いものにしたい』という理由で、僕に奨学金を借りるよう勧めたようです」
男性が通っていたのは夜間大学で、学費は年間で50万円程度。そのため、両親は年間で70万円程度を資金繰りに使っていたことになる。
両親が使い、両親が返済していたが
このケースが冒頭の札幌の父娘と異なるのは、借りている名義人である本人に事前に伝えられていた点だ。実家のコンビニは結果的に、奨学金を運転資金に充てたことで経営が軌道に乗っていて、男性が社会人になってしばらくは両親が奨学金を返済していたという。
「奨学金を資金繰りに使われることには納得していました。ただ、『マンションを購入する』と言ったら、『これからは自分で返してね』と言われてしまいました(笑)。札幌の裁判のニュースを見ると、『よほど親子間のコミュニケーションが破綻していたんだろうな』と思います」
そう話す男性だが、同じような境遇にある冒頭の裁判結果には、腑に落ちない点もあるという。
「女性の両親が勝手に奨学金貸与の手続きを行ったとしても、返済義務があるという判決が一審で出たはずです。しかし、それが二審で覆るのであれば、うちも『両親が勝手に申し込んだ』と口裏を合わせて、JASSOの返済を突っぱねることができたのではないかと、正直思ってしまいます」
奨学金をめぐっては、今後新たな問題も表面化しそうだ。弁護士の西さんは、次のようなケースを挙げる。