
いま学生の2人に1人が、何らかの奨学金を支給または貸与されている。奨学金を借りることが当たり前の選択肢になり、様々なタイプの奨学金が登場する中、親が勝手に奨学金を使い込みトラブルになるケースが出てきている。
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奨学金をめぐる驚きの事例が裁判で明らかになった。
札幌市に住む40代の女性は、2019年ごろJASSO(日本学生支援機構)から奨学金の返済支払い督促通知がきて初めて、自分が奨学金を借りていたことを知ったという。家計が苦しかった両親が、病気の治療費などを捻出するため、女性に無断で彼女名義の奨学金を申し込んでいたのだ。
女性が大学卒業後、奨学金の返済が始まると、しばらくは父親が返済を続けていたものの、次第に返済が滞り、JASSOが契約の名義人である女性に残額を請求したのだ。女性は「自分の知らないところで親が奨学金を借りていた。私には返済義務がない」と主張。未返済分と利子を含む約98万円の返済に応じなかったところ、JASSOは貸付金の返還を求める訴訟を起こす事態となった。
「知らなかった」と主張しても
一審の簡裁判決では、「親があえて文書偽造罪にあたるような行為をするとは考えがたい」とした。つまり、女性が「知らなかった」とする主張を認めなかったのだが、女性が控訴した二審では父親が出廷して事実関係を陳述。結果、札幌地裁は今年3月7日、簡裁の判決を取り消し、JASSOの請求を棄却する判決を言い渡している。
北海道在住のライター・小林英介さんは、「裁判資料を読む限り、父親側が娘にお金の無心をしたことが今回の発端となったそうです。父親は『申し訳ない』と繰り返しており、娘は呆れた様子だったことが伺えます」と話す。
また、奨学金問題に取り組む弁護士の西博和さんは、一連の動きについてこう指摘する。
「今回のケースは、機構の記録にも、奨学金貸与契約への女性の関与を示す証拠がありませんでした。機構が、返済の滞りがちな元奨学生に対して、20年近くも本人連絡を行わないこと自体がまれですし、借用書(返還誓約書)の署名についても、女性のものではないと認定されていました。本人の関与を示す証拠がなければ、『契約不成立』と判断されるのは当然ですので、正直、簡裁段階での証拠関係でも女性側が勝訴すべき事案だと考えていました」