広瀬戸内海のほぼ中央に浮かぶ大崎上島にある広島県立の中高一貫校・広島叡智学園 (photo 井上有紀子)

制服は年に数日だけ

 4月、記者が訪ねると、まず加藤賢一教頭が言った。

「今日は珍しいですよ。制服は年に数日しか着ませんので」

 自主性を大切にしているため、生徒が自ら行動目標を考え、普段は私服登校。この日は生徒総会だから、制服を着る日だったのだ。授業でも自主性が重視されているため、中間・期末テストはない。「単語帳のここまで覚えてくるように」といった宿題も小テストもない。

 中学2年の「国語」を見学させてもらった。この日、取り上げていたのは「枕草子」。白い灰になった炭を、なぜ清少納言は「わろし」と表現したのか。

 生徒は本文の表現をもとに理由を考えて、班ごとにホワイトボードを使って発表した。

活発に意見が飛び交う環境

「昼になって明るくなったら、清少納言も散歩などしたいことがあるはず。でも、炭が燃え尽きるところを見ると、やる気も燃え尽きる。灰と気持ちをリンクさせているのではないかと考えます」

 自然と質問が出た。

「なんで清少納言は散歩したいと考えたのですか」

「太陽が当たったほうが元気になる人もいるかなって思う」

 生徒は答えた。

「太陽が当たればいい人なら、灰の話は書かないかなと自分は思いました」

 やり取りを見守っていた教員は、生徒にこう語りかけた。

「ここで、この班がもう一つ出してくれた、寒さと暖かさ、雪と火という『白と赤の対比』が光ってくる。清少納言が書く背後には、対比している観察眼があったんじゃないか。白と赤の対比を理由として説明できていれば、この班の読みを正当化できたんじゃないかと思います。読みがいい、悪いではなく、説得できることが大事です」

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